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今日の三題話

■連載中のlog
「細工」「放送」「回帰」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 人ごみをすり抜けながら、自分でふと我に返る瞬間。それは薄ら寒いにも程があるほどの現実で、頭を振ってすぐに考えを振りほどきたくなる。
 ヒサキは、自分が浮いているような気がしてならない。あたりを見回しても、ヒサキを見ている人間なんて殆どいないくせに。派手な格好をしている湯木ですら、全く注目されている気配は無かった。
「多分あそこだな、新装開店の広告でてる」

 そういって湯木が指をさしたところは、なんともいえない店だった。少なくても、男二人組みが入れるような雰囲気はしていない。
「えーと……、ぬいぐるみ屋?」
「グッツ店……か?」
「あの、先輩」
「どうした、後輩」
「中まで追いかけるんですか?」
 ヒサキの言葉に、湯木は言葉を詰まらせる。どうやら、湯木でも入りづらいらしい。ヒサキは、すぐに店から出てこないかと、ありえない希望を抱きながら店を見ている。
「いくぞ」
「えー!?」
「馬鹿野郎、あの中では女子高生二人組みがくんずほぐれつ」
「そうやって言うと、エロイですね」
「そうだろう? その女子高生二人組みが、中でキャッキャッ、ウフフなわけだ!」
「わざわざ同じ部の二人にすることないような……」
「知らない人間だったら犯罪じゃないか」
 ヒサキは、もうだめだと心から思った。ソロソロと、目立たないように、逆に目立つ足取りで店に近付いていく湯木の後ろを、ヒサキは追いかけていく。ヒサキは、もっと普通に歩いた方がいいのではないだろうかと不安になりながらも、素直についていく自分にため息をついた。
 
 店の中は、不思議な匂いがした。香水とかではなく多分店内の匂い。ヒサキは記憶を手繰り寄せようと、何度か鼻をひくつかせたが、結局思い出せるような匂いではなかった。
 店は、猫や良くわからない不思議な生物をかたどったぬいぐるみが並んでいる。アクセサリや、小物なども並んでいるが、既にヒサキはそれらを凝視することが出来ないでいた。
 出来るだけ、頭を低くして物陰から二人を確認する。机に乗せられ展示されているぬいぐるみがゆらゆらと揺れた。
「すーちゃん、これなんかどう?」
「……」
 相羽が、一抱えもあるぬいぐるみを持ってきた。それを無言で、抱くステラ。ステラの小さい体がぬいぐるみで埋まりそうだった。
「エロイ、エロス! そこだ、いけ! 抉るように! 踏み込め!」
 足元で、屈んで二人を見ている湯木は一人興奮している。かなり細かい飾り細工を施されている机の足を握り締めていた。痛くないのだろうか? ヒサキは見下ろしながら思った。
「おおきい……」
 ぬいぐるみの方が、ステラよりも幅が広い。抱えても抱えきれないまま、ステラはフラフラしていた。足元では、湯木がオーバーヒート気味に震えている。すでに放送禁止の域だ。
「先輩、店の外でまってましょうよ」
「ならん、ならん。これを見ていなければ一生後悔するぞ!」
 今にも叫びだしそうな湯木は、食い入るように二人を見ていた。足もとでブルブルと震え、奇声を上げかける先輩を、ヒサキは心配そうな目で見下ろす。ほかの客の視線が痛い。
 実際は、視線なんか殆ど向けられては居ないのだけれどヒサキには、幻痛のように視線が突き刺さってる気がしてならなかった。 
「おっと、危ない」
 倒れそうになったステラを支え、相羽は彼女のぬいぐるみを取り上げる。いきなり、クリアになった視界にステラは目を白黒させながらあたりを見回す。
 そして、ヒサキと視線がかち合った。
「あっ……」
 思わず声を上げてしまったヒサキと、体を引っ込める湯木。ステラが近付いてくる。ヒサキと湯木は下がる。だが、既に補足されている二人は殆ど動く間もなくステラに追いつかれた。
「おはようございます」
「お……はよう」
 気まずい雰囲気が流れる。背中に嫌な汗を感じながらヒサキは、引きつった笑いを浮かべた。
 足元で湯木が何か小声で呟いている。
 と、いきなり叫び声が上がった。
「返して、これ私の!」
「はぁ? なにアンタ。ちょっと、離してよ!」
 みると、相羽と知らない女性がぬいぐるみを取り合いしている。何があったのか、相羽のほうがすごい剣幕だ。相手の女性も、まけじとぬいぐるみを引っ張るが、必死というよりは、相羽が突っかかって来たことに対して、いらだっているような感じがする。
「やべ!」
 足元から声が、と思った瞬間には、湯木は立ち上がり走り出していた。
「カゴメ、止めろっ」
 相羽の両手を掴むと、今までみたことないような力で彼女の両手を捻り上げる。
 しかし、相羽は全く意に介していないのか、暴れぬいぐるみを奪おうとしていた。
「あんた、早くいけ! 早く!」
 呆然とぬいぐるみを抱いて見上げていた女性は、湯木の言葉に我に帰ると走り出した。
 ヒサキの横を抜けて走っていく女性は、目じりに涙が浮かんでいた。ヒサキは、一瞬目で追ったが、ソレよりも相羽が気になり視線をもどす。
「私の!」
「落ち着け! カゴメ」
「私の!! 私の物!!」
 まるで、大事な物を取られたかのような、母親と分かれる子供のようなそんな必死な感じで、相羽は走り去った女の跡を追いかけようとしている。本当に子供がダダをこねるような、幼少回帰を起こしたような相羽に、ヒサキは呆然と立ち尽くす。その間にもカゴメは暴れつづけていた。だけど、湯木につかまれた今どれだけ振りほどこうとも、その手は外れない。
「後輩、出るぞ。ステラちゃんつれてこい」
 暴れる相羽を引きずりながら湯木が店を出て行く。
 横を向くと、ヒサキと同じく少し呆然とした、けれどいつもどおりに無表情なステラがヒサキを覗き込んでいた。



 web柏餅

 実は、次の日の分は用意してある。週刊連載漫画仕様。
 嘘です。

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