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今日の三題話

■連載中のlog
「事故」「抵抗」「歓喜」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 店をでても、湯木の足取りはとまらない。暴れるカゴメを、力任せに引っ張りスゴイ勢いで人ごみを抜けていく。余りに一瞬で、その二人に注意を配る客は殆ど居なかった。
 ヒサキは店をでたところで、離れていく二人を目で追う。なんだか、なれているような、そんな感じがヒサキにはした。
 逃げ出した被害者の女性は、仲間内に愚痴をぶちまけてるところで、まるで事故に有ったかのように大げさに修飾語を並びたてつづけている。そんな、所には一瞬でもいたくないヒサキは、
「いこう」

 ステラに声をかけ歩き出した。
 無言でヒサキの後ろに従うステラ。彼女も、先に行った二人のことが気になるのだろうか、心配そうな表情が、一瞬浮かんだりしている。
 見失った二人を追って、ヒサキとステラはビルの中を歩いていく。二人とも元来から人ごみが苦手なこともあり、びくつきそれでも先輩二人を探そうときょろきょろと、まるで田舎から出てきたカップルのようにしか見えない足取りだった。人ごみに抵抗を試みるものの、やはり精神的に辛いのか、行動がどうしてもびくついている。
 それでも、ヒサキの背中にピッタリとくっついて離れないステラと、数歩歩くたびにステラガついてきてるかを確認するヒサキの姿は、傍から見ればほほえましい姿に映っただろう。
 本人達は、猛獣の折に入れられたウサギの如く精神状態では有ったとしても。

 暫くして、完全に見失ったと気がついたヒサキが足を止めた。丁度、人がこないポケットになってる場所。喧騒がなぜか、遠巻きに聞こえるぐらいの場所だ。人の流れというものは不思議と、こういった穴を作ることが多い。目的がありその場にきいる限り、通路と店の配置により変化はするが、確実にソレは存在する。たどり着いて一息つくと、ヒサキは携帯を取り出す。
「とりあえず連絡つけないと……」
 と、電話帳を呼び出した瞬間携帯が震えた。
『湯木カズ』
 名前が液晶に踊る。かれは驚き、取り落としそうになった携帯を持ち直し通話ボタンを押す。
「はい」
「後輩か。今どこにいる?」
 電話越しの湯木の声は、少し濁って聞こえた。
「えっと、」
「二階の階段前」
 見回しても何がなんだか全く解らないヒサキに、ステラが呟くように答えた。それに、表情で礼を言いつつ、電話口に答えを告げる。
「そうか、んじゃそのまま階段おりて外にきてくれ。駅に行かないで、ビルでてすぐの広場にいるから。出てきたらすぐわかるはず。んじゃ」
 そういって電話は一方的に切れた。ブツリという、ノイズがヒサキの耳に響いてはじける。
「えっと、外にいるって。ビル出てすぐのところ」
 ヒサキの言葉に無言でステラは頷く。そしてヒサキはステラが手ぶらだったことにきがついた。買い物に来たというのに、邪魔をしてしまって申し訳ないと思う、だが言葉になって出ることはなく、一度ステラを見るだけにとどまる。
 だが、ステラはヒサキガ何を言いたいのかわかったのか、一度軽く首をふった。
 歩き出す足は、軽く。先ほどまで人ごみに怯えた二人組みはもうどこにも見当たらない。
 どこかで子供の泣き声が上がる。一緒に嬌声があがった。アレがほしい、まだここにいる。カップルの静かな会話も風に乗ってビルを駆ける。
 昼の空は青く、風は気持ちよく、世界は光に満ち溢れている。どこにも不安などなく、川は歓喜を溶かし、風は期待を撒き散らし、光が希望を運んでくる。白く綺麗な階段が、どこまでも続いていて、それはきっとどこまでも続く毎日ようで、ほんの少しだけ明日がいい日に思えた。
 
 ビルを出るとすぐに相羽と湯木の姿が見えた。ヒサキはそのことに、少しほっとしながら歩き出す。もし見つからなかったらどうしようかと、不安になった自分が恥ずかしかった。
「おう、わりぃな。引っかきまわして」
 湯木が笑う。彼が座っているベンチには、相羽が横に寝かされていた。頭頂部を湯木の太ももにつける形で仰向けに寝ている。
「あの、先輩。相羽先輩は……」
 いったい、なにがあったのか――
「お前さ、カゴメの事へんだとおもわない?」
「え?」
 湯木の言葉がわからなかった。ただ、馬鹿にしてるふうでも、ふざけてる風でもないのは目を見れば明らかで、ヒサキは湯木の剣幕に一歩下がる。ポス、と背中に当たる感触。ステラがすぐ後ろに立っていたらしい。これで前も後ろも逃げ道は無くなった。
「変じゃなかったか? 普通の人間と、違うかどうかってはなし」
「わかりま、せん」
「こいつ、自分の物に固執するんだ。あんま俺もよくわかんないけど、なんか思い当たる節とかあるだろ」
 言われていろいろと思い出すが、ほとんど一週間程度しか一緒に居たわけではない。そんなに――と、そこでヒサキはおもいだした。たしか、初めてあの空間にいって、逃げ出したとき。廊下で倒れていたとき、カゴメが来て……。
「そういえば、ジュース……」
「そうだな、普通ならとりあえず手持ちの飲みもんわたすよな。でも、買ってきたのはカゴメのなかじゃ、自分の物だったわけだ。お前のために買ってきたものではない。それと、名前」
「名前、ですか?」
「名前は他人のものだ。親がつけた、個人のものだ。だからこいつは覚えられない。カゴメが、つけた名前じゃないと覚えられない。カゴメのつけた物ではないから」
「そんな……」
「さっきの店でも、おおかたカゴメが目をつけてた物を、先にもっていかれたんだろう。よくはみてなかったが」
 何もいえないかった。ただ立ち尽くして事実を受け入れるほか無かった。病気というには、酷くあやふやで、それでもきっと折り合いをつけて生きていかなきゃいけない世界では、とても不器用になってしまうハンデ。それは、きっと自分が抱える物にとてもよく似ているのだろうと、ヒサキは思う。
 誰もが諦め、折れて暮らしていかなければならない世界。そんな世界で、自分の中にどうしても折れない場所、曲げたくてもなぜか曲がらない場所がある。それがカゴメの中では、自分の物と他人の物の境目なんだろう。酷く歪で、そしてどこまでも正直。ヒサキは似ていると思った。人とどうしても深く付き合えない、人の事情を知ることが出来ない。自分と相手の情報の間に境目のある自分と、酷く似ている気がした。
「にしても、後輩」
 背中にあたるステラの体が温かい。
「え?」
 立っているステラ。当たっているのは、腰のうえ辺り肩甲骨の下あたり。
「昼の日中にみせつけてくれるじゃないの」
 それは、きっと考えなくても、それだった。
 意識した瞬間、柔らかさやふくらみがありありと脳裏に再現される。
「うわぁ! ご、ごごご、ごめん!」
「?」
 事情がわかってないのは、ヒサキに謝られているステラだけだった。




 忘れてた。
 明日は、万博いってきます。('A‘)ノシ

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