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今日の三題話(?)

■連載中のlog
前回で、三題話200回を数えました。ここからは、お題無しで進めさせていただきますが、お付き合いください。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 一番最初は、暗闇だった。気がつけば、空に星が光り、地があった。その次は自分の体だ。それから、次第に輪郭が現れて、最後にはそこは殆ど前と変わらないそんな場所になった。
 疑問にはなぜ、思わないのか? 気がつくべきであったのは、本来自分ではなくて、彼らだったのだと、闇の中一人ごちたため息が落ちる。
「おおおおぉぉぉぉあぁあぁああぁぁぁ」

 遠くで聞こえるのは、白い人のうめき声。あれも本来は普通の話し声なのだ。賀古井は一人暗闇中で思う。遠く永遠という言葉面だけの距離。いくら踏み出しても届かない。けれど、音が聞こえる。そして向こうに見えている。手を伸ばして届きそうなほど近いくせに、どれだけ歩いても届きやしない。距離は存在しないのだ。まるで虚数。肌で感じた違和感と、理解不能な恐怖。存在が理解できない。だから、そう、だから――
 白い。
 ソレはありえない光景だった。白い。目はそう認識しているし。そして、脳は意識として白さを理解している。だが、暗闇なのだ。そう、ここは真っ暗で何も見ない。感情が叫ぶ、暗闇は恐怖だ、闇は恐ろしい。しかし、白い。白い闇。意識と感情、感覚と心がバラバラに引き裂かれる。
「これが、通路……」
 呟いた言葉は、呟く前に耳に届いた。頬の骨を伝わって聞こえる音だけが唯一、自分が言葉を発したのだと理解できる最後の糸。
 まるで、意識だけ追いつけないようなそんな感覚。目眩のするその感覚に、賀古井は自分が自分でいるために、出力することを止めた。

 志茂居は死んだ。賀古井は、白い人に斬り付けられた左腕を見る。そこから神経が断絶しているかのように、心が手首から先を認識できない。削られたのは精神といったところだろうか。賀古井はそのあるはずの左手を眺めながら考える。
 床に手をつければ、在るのが解る。体を支えることも出来るし、物を掴むこともできた。思ったとおりに動いている。だが、体を支えたり、物を掴んだりと何か別の物が動いたり、支えられてリしない限り、左手があるとはどうしても思えない。心が左手を見れなくなった。
 白い人の動きは、予想以上に機敏になっていて、ナイフを振り上げた左手は持っていかれた。触手……ではすでになかった。アレは、
「刃物」
 こちらと同じ武器なのだな、と賀古井は白い闇の通路で一人笑う。あのときの恐怖が、床を這うように染み込んでくる。彼はそれを体を抱きしめるようにして耐え、そして笑う。
 床は白い。白い闇で覆われている。一瞬。自分の足元の白い床が歪んだように見えた。
「?」
 疑問に答えたのは歪んだ床。ずるりと、そう、まるで皮がずれるような。腐った野菜の皮がずるりとむけるように。いや、肉だ。そう、肉。腐肉を覆っていた皮が引かれて剥けた。
 溶けて腐った肉が飛び出るように。皮がずれて、肉が飛び出す。ソレは、強烈な腐臭と、血と、そして体液の匂い。
 そして、皮が剥け、腐肉の中から顔を出したのは、顔その物だった。
 顔。
 顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。
 引き裂かれるように腐った肉は次第に裂け目を広げていく。気がつけば床にはフジツボのようにびっしりと、みっしりと、顔が張り付いていた。腐りかけた目が、どこともしれず視線を漂わせている。
 人の、死んだ、顔。
「くっ!」
 白い人は、シルエットのはずだった。そう、今までは。あの時志茂居と共に此方に来た瞬間、見たのだ。それは、シルエットではなく、白い人ではなく。
 白くぼやけている人。いや、人その物。目には意志がともり、恐怖と緊張にに彩られゆがみ、既に人間の顔ではなくなっていた。だがその動きには意志があり、そして此方をねらってくる。
 崩れ落ちた顔に、恐怖を張つかせて振り上げたのは白い刃物。その動きは確かに愚鈍で避けられないものではなかった。だが、その顔が笑ったのだ。一瞬恐怖や敵意から、愉悦を含んだ顔になった。その驚きが、賀古井の左手を奪った。
 直接、神経に焼き鏝をつきこまれたような衝撃。
 神経が、脳まで届いているのか理解できる。直接神経が焼け焦げていくような、そんな衝撃の中で、賀古井は白い人がまた恐怖に引きつった表情になったのをみた。
「醜い……な」
 頭を振って思考を戻すと、体の感覚がもどってくる。左手だけが戻ってこない。見えもしない左手のあるはずの場所を眺めながら賀古井はため息をついた。
 白い通路。闇は体を恐怖させ、思考を散漫にさせ、体は恐怖に縮み上がっている。先が見えているはずなのに、闇に閉ざされて己の体ぐらいしかわからない。
 その中で、人工の光を放つ一つの物。携帯だ。賀古井の携帯が光っている。バックライトの光は、白い闇の中で、賀古井の輪郭を照らしている。蹲っていた賀古井が、携帯を弄っているのだ。そして、おもむろに履歴から一人の名前を選び電話をかけた。
「加賀ヒサキ」
 来た道を振り返れば、空いている扉が見える。距離は、部屋一室分。そう一室分のはずなのに、どれだけ歩いてもたどり着けない。電波はとどく、きっと声も届く。
「志茂居が死んだ」
 蹲り、白い闇に照らされた床をみる。顔。顔。顔がわらっている。顔がないている。顔が叫んでいる。顔のなかに、志茂居が居た。
 笑っている。大声で笑っている。だが、声は聞こえない。幻覚なのだと、自分に言い聞かせながら、賀古井はヒサキの返事を待った。
「は? え? いまなんて」
 予測できない言葉は受け取ることが難しい。賀古井はもう一度言い含めるように、
「志茂居が死んだ。今、テニス部の部室だ。向こう側だ。私も動けない、これるか?」
 ヒサキは一瞬考え込むように黙り込んだがすぐに、わかったといって電話を切った。もうすぐ彼なら来るだろう。相羽や湯木ではいけない、加賀で無ければならない。
 そう、加賀でなければ。
 賀古井は一人ごちると、目を閉じ何かをこらえるように体を丸めた。
 白い闇に覆われた通路は、気がつけば白い顔に埋め尽くされている。一つ一つが、叫び笑い泣き怒っている。匂いがする、腐った肉の匂い。血の匂い。賀古井には、既に慣れた物だった。
「加賀ヒサキ、早く来るんだ。もう、誰も引き返せないのだから……」
 呟く声が、笑い声にかき消される。どこまでも届かない通路に、ただ一人賀古井はうずくまってヒサキの到着を待っている。白い闇のなか、放っておけば消えそうなそんな通路で、賀古井は静かに蹲る。笑い声の降り積もる廊下はどこまでも狂気に満ち溢れていた。




 俺天才じゃね?
 天災じゃないのはたしかだけど。

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