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今日の(三題)話

■連載中のlog
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 電話の意味がわからない。
 志茂居先輩が?
 ヒサキは、何とかその意味を理解しようとしたがどうしても飲み込めない錠剤のように口の中に残っている。
「志茂居が死んだ。今、テニス部の部室だ。向こう側だ。私も動けない、これるか?」
 まるで現実味を伴わない言葉が、電話の向こうから飛んでくる。ソレは、羽虫のように耳元でぶんぶんと回って、力尽きて足元に転がった。

 志茂居が、今、テニス部、向こう、動けない。これるか? 部長は何を言っているのだろうか。ヒサキは必死で考える。わかってることは、賀古井の声が酷く遠く、そして焦ってることだ。少なくても、動かなければ取り返しがつかない、それぐらいは何とか理解できた。
「わかりました」
 呟く答えと同時、電話を切る。親に、急用が出来たと声をかけすぐに家をでる。
 が、家を出た瞬間脱力する。えっと、だから。志茂居先輩が……。
 死んだ?
 え? 死? なにをいっている? 死ぬわけ無いじゃないか。別に病気でもないし、それに若い。そう、志茂居先輩が死ぬわけが。
 だから――
 どうして――
「志茂居が死んだ」
 賀古井の声が離れないのだろう。

 ヒサキは、フラフラと家をでると、来た道を戻ろうと足を進めていた。ほぼ無意識の足取りは、全くの無防備、全くの無警戒。
 すぐに車道があることも、ヒサキはわかっていなかった。トラックが走っている。音は聞こえていた。タイヤがアスファルトを削る音、ドラムを引っかくブレーキの音。クラクションの、耳障りな音。ヘッドライトの大きな光。
 自分の目の前で引かれた女の子の名前がふと頭に浮き上がってきた。
「ライナ……」
 色を失う文字通りの姿を、ただなすすべなく涙めで見ていた。流れ出ているのは赤。熱。まるで、急激に冷やしているのかと言いたくなるようなほど、手にとるように冷たくなっていく体。ああ、体は温めないと、動かなくなってしまう。血だらけの口から出た言葉。
「もういいよ、もう無理だよ」
 諦めの言葉。
「ありがとう」
 そして彼女の真っ白な唇は、動かなくなった。
 赤。白。
「ライナ」
 ヘッドライト。ブレーキ。
「わかったよ」
 なりつづけているクラクション。もう動かないライナ。
「僕は諦める――」
 衝撃。

 携帯を開く。白い闇のなかでは、バックライト無しでは文字は読めない。
 賀古井は、履歴を確認して、そして時間を確認する。
「どうやら、時間は正確に動いているらしい」
 駆けてから三分。すくなくても、目に見えるような狂いはないようだった。通路自体が完全にずれた時間をもっていても、それは既にどうしようもない結果だ。
 そして、時間が進んでいるのは確かで、例えおそかろうがいつしか加賀ヒサキは、この場所にくるだろう。賀古井は確信していた。
 己の手のひらに収まらない大きな携帯電話。いつごろから、電話のほうが大きくなったのだろうか、賀古井は思い出そうとするもののすぐにそれをやめた。
「無意味。今は体力温存をしておくべきだ」
 言い聞かせるように呟いたことばは、白い闇の中にとけた。もう、あの顔の幻覚は見えない。あるのは、白い闇の向こうにまるで揺らめくように存在しているテニス部の部室。
 闇に塗りつぶされて入るが形は失っていない。そして、ほんの数センチしまり切らないまま空いている扉。唯一世界をつなぐ場所がそこにある。もし風でも吹いて扉が閉まれば、そこでアウトだった。
 結局通路とは名ばかりで、通れる道ではなかったのだ。まるで、細長い籠のようなものだった。どれだけ歩いても、距離を縮めることは出来ない。あの黒い部屋から踏み出した瞬間から、賀古井はつながりを失い、通路に落とし込まれた。
 無謀ではあった。それは理解していたつもりだった。けれど、それはもしかしたらこの円環を抜け出せるほどの綻びなのかもしれない。気がつけば、賀古井は通路に飛びこんでいた。
 そして、出られなくなった。繋がりがあれば出れる。簡単にいえば、あの部室から紐が伸びていればもどれるはずだった。出なければ中に入ることすら叶わない。
 無限というものに、始まりは無い。だから、この距離が無限であるのなら入ってくるまで持っていた基点がなくなっただけのはなしだ。自分の基点が無限軸上にあるから、抜け出せない。
 賀古井は考える。間違いなく向こうから伸ばされた手であるのなら、引き上げることがかのうだ。しかし、この場所から自分の服を投げても、距離は無限。届きはしない。
 空間レベルの一方通行といったところだろうか。
 だから、問題は中の時間とそとの時間に差があるかどうか。それだけだった。みたかぎり、拙い最後の望みである扉の隙間は、いつもどおりに見える。風も、部室練を照らすライトの明かりもいつものように揺れている。
 同じである、賀古井はそうけつろんづけた。もしちがっても、最悪このまま発狂するか飢え死にするまでここで待てばいい。
 なにせ。そう、なにせ。
「またやり直せばいいのだ」
 呟きは、白い闇に消えた。
 
 肩まで伸びた髪。やせっぽちのくせに、頑固で気丈で、負けず嫌いだった。釣り目のくせに、嬉しいことがあると驚くほど眉尻が下がる。そしてどこか、達観した感じだったあの表情は、間違いなく世界すべてのことを。
 諦めていた。
「ライナ?」
 変な名前だと、初めていったとき。彼女はいきなりヒサキのスネを蹴り上げた。
 父親が、第一子の誕生にまいあがり、市役所にだした届がそうなったというのが、本当の理由で。彼女の本来の名前はライチ。夏に生まれたから、ライチ。でも、上の線がちいさくて、登録された名前はライナ。
 そのことを、馬鹿にするとライナはとてつもなく怒った。
「うるさい!」
 父親が、自分の誕生を喜んでくれた証拠だと胸をはるライチは、ヒサキにとってはとても輝いて見えたものだ。どこまでも前向きで、元気いっぱいで、強情なくせに気が利いて、そのくせどこか達観したような横顔をするライナのことが、ヒサキは好きだった。
 そのかんじょうが、尊敬からくるものなのか、恋愛感情からくるものか、ただ傍にいたからなのか、未だに解らない。
「それでも、僕は君のことを――」
 伸ばした手は届かない。開いためが見たのは、夜空と、見覚えのある黒髪。なつかしい釣り目と。
 ああ、そう、そうやってライナは眉尻をさげるんだ。覚えてる、そのきみの……。
「お気づきですか、ヒサキ様」
 ユキの声に、体中がまるで爆発するように目覚めた。わき腹が少々痛みがはしる。その痛みの中でユキをみて、ヒサキは思う。
 ああ、そうか。にてるんだ。
「大丈夫です」
 後ろでは、怒声をあげて去っていくトラック。
 ヒサキは、ユキに抱え上げられたまま、そのトラックを見送った。



あ〜、どっかにいやらしい絵を見たらお金くれる国ってないかな?
うそ、ただのweb拍手

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