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今日の「三題」話

■連載中のlog
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 見てみない振りをするのは得意だった。加賀ヒサキは、いつも目をそらして生きてきたから。道を聞かれたって、視線すらよこさないで歩ける。どう見ても迷子の子供の横を、何気なく横切ることだってなれたものだった。
 だから、そう。加賀ヒサキは、目をそむけることが得意だ。
「それとも、すでに肉という認識か」

 ヒサキは、賀古井の言葉に主語を見出せなかった。何が肉なのだろうか? 首を傾げたが、わかるわけもなく、答えられずにいる。
「足元だ、加賀ヒサキ」
 言われて向けた視線の先には。いつもどおりの床が広がっている。
 黒いくせに輪郭だけはやけにはっきりとして、暗いくせになんだか普通に目が見える。そんな、いつもの「向こうの世界」だった。
 ヒサキは、この世界がどういった理由で出来てるのか知らないが、曰くつきでそして「白い人」はここに居て、そして、自分の居る世界に影響があるから掃除をしている、という事は解っていた。そして、自分はそれ以上知る必要性がないのではないか、そんなことを漠然とおもっているのだ。
「例え、加賀ヒサキが肉だと認識したとして、それで周りが変わるわけではない。加賀ヒサキが肉だとおもっていても、周りにはそうではないのだ」
 だから、ヒサキは思う。自分はただの歯車だったはずだ。何も知らない無知のまま、本来そこ在る隠された刃物から目をそむけ、無知で無垢な手足であればよかったはず。
 ヒサキは視線を巡らして、なんとか賀古井の言っている意味を理解し様としていた。だが、やはり彼には何を指していっているのかすら理解できない。
 ――いや、ほんとは理解したくない。
「どうした、そろそろ足をどけないか。加賀ヒサキ」
 ――足元には何も無い。何も無い。
「その足の下に」
 ――鼻をつんざく匂いは、いつものことだ。
「その、靴で踏まれているのは」
 ――だから、足元の感触なんて。
「志茂居ケイタの体だ」
 血液が、凍りついた。
 言葉だけで目眩を覚える。精神はすべてを拒絶している。そう、しているはずなのに。在るがまま、あるがまま、ヒサキの感覚すべてを浸していく。
 それは恐るべき速度と、容赦のなさで、加賀ヒサキなどという個体が抗えるものではなかった。肺から、強烈に搾り出された息、続いて胃の内容物がせり上がる。
 たぶん、そこがヒサキのなかで最後の一線だった。
 足元には、志茂居先輩が居るのだ。ここで、もどすわけにはいかないのだ。ここが、少なくても超えては行けない一線なのだ、ヒサキは両手を口元にあて、汗で滑りそうな手を必死に押さえつけ、体の反射と真っ向か勝負を挑む。
 吐き気も、冷や汗も、そして泣き言も涙もすべてかみ締めた。
 嫌な音が口元でする。なにか、硬い物が削れる音。あまりに強くかみ締めた歯と歯が削れたのだ。歯茎から流血しているが、自分の血の匂いなんてむしろ心地が良いほどだ。噴出した冷や汗は、気がつけば脂汗に。力を入れすぎた体が痙攣を始めていた。
 それでも、体の反射は意識全て刈り取るようにうごきだす。涙が出る。胃がまるで別の生き物のように動いているのがわかる。
 まるでそれは、自分というものが、体にとっては絶対ではない。そういわれているような、疎外感。思うように動かない体を、それでもなおヒサキはかみ締め、踏みとどまろうとしている。
 背中に、一瞬感覚がそれる。また、歯が欠けたのだ。その反動に、まるで意識がもっていかれるかのように背中にそれた。
 そして、ユキが傍にいることに気がつく。
 丸まった背をそらし、ヒサキはユキに合図を――
 瞬間、世界が飛んだ。飛び込んできたのは、光。なんの光かわからないまま、耳に届くのは爆音の叫び。太ももと背中に重みを感じる。そして、あの「向こう側」の匂いではない、いい匂いが鼻に届いた。
「あと1秒です」
 その言葉が、どれほどヒサキに救いを与えただろうか。完璧に1秒、それは瞬きを二つするほどの時間。気が着けば、ヒサキは便所にいた。目の前には、白い便器が。

「がはっ。ごほっ」
 胃液に鼻の粘膜をやられ、つんとした感覚に涙をながし。それでも足りないとばかりに、胃は収縮を繰り返す。気が着けば、ユキは水を汲んできていてた。ヒサキは胃に吐き出させるものを与えるために必死で、水を嚥下する。
 ある程度胃に水がはいったら、また無理やり吐く。それの繰り返し。三、四回繰り返したところで何とか意識がもどってくる。
 息はあがり、涙目の視界は殆どなにもみえていない。トイレの匂いよりも、自分の吐いた物のほうが臭くて嫌になる。口元に残った、胃液の味が更に不愉快さを加速させていた。
 それでも、胃が意識を無視して収縮を繰り返すことはなくなり。あとにのこったのは、異様な倦怠感と不快な匂いだけだった。
「落ち着きましたか」
 背をさすっていてくれたユキが声をかける。ヒサキは、言葉が上手くでなかったので頷いて答えた。
「先ほど、ヒサキ様の奥歯が欠けた音を確認しました。早めに歯科医に向かうことをお勧めいたします」
 いわれて、舌で口の中を探るといつもとは違う尖った感触が奥歯にある。ヒサキは、少し面白くなって、舌でその感触を楽しんでいた。かすかな痛みは、ほんの一瞬だけ何かを忘れさせてくれた。きっと、胃が痙攣するのも、何か忘れたいからなのかもしれない。ヒサキはもやのかかった頭でそんなことを考えていた。
「ご立派でした、ヒサキ様」
 ユキの言葉に、苦笑いを返す。ヒサキは、気だるい足を奮い立たせ立ち上がった。便所の個室から、ユキに支えられながら歩き出した。
 そとの空気を吸うと少しだけ気分がよくなったのか、ヒサキは深くため息をつく。
「戻りましょう。やらなければならない事はまだあると思われます」
 ユキの言葉に頷いたヒサキは、ゆっくりと足を進める。
 
 夜の学校は、静かで。昼の賑やかさは、全く残響すら残さず夜に溶けている。静まり返ったとはいえ、夜の風も虫の声も、そして校舎が冷えていく音もする。
 申し訳程度に灯っている校舎を照らす電灯に、ヒサキとユキは寄り添うようにして照らし出されていた。
 そして、その二つの背中を見ている月明かりを反射する美しい金髪。
 そして、頭の上には。
「あーあ、そいうことか」
 彼女といつも共にいる、幽霊が一体。
 女は無言で移動している影を見る。夜の風が、金色の髪の毛を揺らした。



 ぽちぽちと、小説おいてないのにボタン押してくれた人がいたのでちょっと感動した。
 予想では、ボタンがあったら押してしまうような人。10代前半♀とみた。

陥落ボタン。
うそ、web拍手。

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コメント

ユキさんいいじゃないですか。
いたしても、きっとテープレコーダーのように「アーン、アーン」と。
orrrrrrrz

(・3・)思うに、きっと「おっぱいおっぱい」で名前の文字数まで使い果たしちゃったのサ!
きっと女の子だ。エルフ耳の!

  • らい
  • 2005/06/29 20:59

>テープレコーダー
 いやそれはそれでアリ! orrrrrrz

>エルフ
 エルフ! エルフ! やっぱりエルフはいたんだね!

 ちょっと、ラピュタいってきます。

  • カミナ
  • 2005/06/29 23:49
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