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今日の「三題」話

■連載中のlog
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 それはそうだ。
 読んだことのある小説や、漫画にもそう書いてある。予測はできない、感情がついていかないから。だが、記憶はべつで照らし合わせることだけはできる。だから、ステラは物語を読む。せめて、世界を理解するために。歴史をしり、物語を吸収し、人の話を聞き、そうして自衛しないとすぐに世界に流されそうになる。
「若い男女が、一緒にトイレから。ま、いわずもがな、だよな」
 ワンが言う。ステラもそうだと納得する。
 少しだけ、なんだかおなかがしくしくと痛んだ。
「あんなとこなんて、俺には理解できねぇけど。最近は、場所すら選ばないもんなのかね」

 軽薄なワンの言葉は、嫌というほどにステラに降りかかる。まるで、粘液質の溶解液。上からぼとぼとと降りかかってはゆっくりと垂れ、その速度で確実にステラを溶かす。
「ん? なんだありゃ……」
 突然ワンの声のトーンがおちる。ワンの視線を追うと、なんだか良くわからないものが、ヒサキが消えていった方で飛び回っていた。
 まるで、豆電球を紐につるしてグルグルとまわしている。そんなかんじである。少なくてもそれは、ヒサキとメイドが向かっていった先である。
「俺らと同じ、じゃないな。でも似てる」
 誘われるようにステラは歩き出した。
 くるくると、その光は回っている。
 まるで、主人を無くした犬のようにくるくると。

 泣いていた。それは、悲しくて泣いていたのではなく、悔しくてないていた。あまりにも悔しくて、なんとかしたくて、それでも何もできなくて。
 自分の無力さが悔しくて、募るのは怒りなんかではなくて焦りと悔しさ。憤り。
 どうして。どうして。
 問いかける言葉に答える人は居なかった。いつもいてくれた人はもう居ないのだ。
 何も出来なかった。何も出来ないで居る。何も出来ないだろう。
 だから泣いていた。悔しくてソレはずっとその場所で泣いていた。それ以外に、自分がどうして良いのか、どうしたいのか全くわからなかったから。
「き、きききみは?」
 行く宛てもないソレは初めて自分に声をかけてくれる人間を見つけた。何もするわけでもなく、ただじっとしていたソレは、初めてそのときに役割と形を与えられたのかもしれない。
 ソレは、自然発生的な物ではなかった。
 人間が「向こう側」と呼んでいる世界。あのずれた世界を何とか制御しようとした機械、それの影響で発生したのだ。
 「向こう側」を認識するのは容易なことではなかった。本来全く重なることも無いはずのモノを、心が理解する。それがどれほどに難しい事か思い知らされる結果になっただけである。
 だから、本来存在するはずも無い、全く異なるモノ。それを知っている人間が集める必要性があった。逆にいうと、ほかに取っ掛かりすらない状態だったのだ。かといって、全く異質なものを知っている人間を探すのは不可能。結局のところ、欠損しているからこそ異質なものに近づける、というなんとも陳腐な結論が導き出されることになった。
 多くは、身体的な欠損。続いて精神的な欠損。この二つは容易だった。科学で証明されているから。それ以上の欠損や、異質なものへの認識となると話は変わった。証明できないものは、あやふやで信用できない。その組織は、そう言うものを集団に入れることはなかった。詰まるところ、幽霊との接触や多次元交信などといった眉唾なものはすべて排除されたのだ。
 結局間引かれ集まったのは、五感がそれぞれ無い人間。そして、精神的な認識異常者の集まりだった。統率するのは、五感のうち味を失っている人間だった。彼が一番普通に暮らしていたから。他の人との、かかわりがしやすいから。ソレだけの理由。
 強制的な「向こう側」へのアクセス。資金はすべて、有羽という国内有数の富豪。正確には国を守る四柱の一つとよばれる家。なんの問題もなく研究はすすんだ。
 とうぜんのことながら、「向こう側」が理解できることはなかった。だが、その中で唯一近づけた研究成果がある。だが結局それも、「向こう側」が向こうではなく此処だという答え意外に結論を導き出せず、最後にはその集団は解散し、何もかも無かったことにされた。
 研究成果の一つである。人工的な「向こう側」を作り出すといわれる装置をのぞいて。
 その研究成果の一つも、結局のところ「向こう側」を完全に再現することは出来なかった。出来たのは部分的な揺らぎのみ。そして閉塞空間で生まれたのは、小さな存在だった。
「よ、よよよ、妖精?」
 誰にも見えていなかった。ただ、リーダーだけがソレを認識していた。差し出された手、ソレは近付く。大きい手だった。
 ソレは、そこに居るしかなく、そしてそこに居たいと思った。
 
 思い出に浸ったところで、いつも傍にいた人が帰ってくるわけではない。そんなこと、何度も学んだことだった。
 いつか、自分は居なくなるのだから。そしたら、君は一人になってしまう。だから、知っておくんだ。その人は言った。
 それは、そんなことを考えたくもなかった。事実を受け入れることが怖かったからだ。ただ、その人が居てくれればソレでよかった。居なくなった後のことなんて考えたくもなかった。
 でも、居なくなった。しかも、余りにも早く。
「けいたさん、けいたさん」
 涙を流しながら、くるくると回る。呼んでも戻ってこないことをしっているが、それでもそうするほかなく、ただくるくるとその場でまわるのみだった。
 小さな人間が、部屋から志茂居を引きずりだしている。志茂居の体に触っていることすら、それは許せなかった。けれど、ソレを小さな人間が認識することはなく、その声が届くことはなかった。
「けいたさん、けいたさん、けいたさん」
 泣きながら呼びつづける名前は、どこにも届かない。自分に形を与え、自分に役割を与え、生きることを教え、そして出来ることを教えてくれた人はもう居ない。
「けいたさん、けいたさん、けいたさん」
 涙は枯れなかった。自分という存在が薄くなっていく、そんな気がした。涙を流した分だけ、自分がなくなっていく。
 もしかしたら、流しつづけたら、自分も消えてなくなることが出来るんじゃないだろうか。志茂居はもう居ない。それは、涙をながし志茂居の死体の上でくるくると回り。そして泣いている。
 
「そうだ、よろしくたのむ」
 ノイズを残して、携帯電話の通話が切れる。賀古井は、目の前に横たわる志茂居を見下ろしていた。携帯の液晶には、芳田の文字が躍っている。ほかに頼るところも無い自分を歯がゆいとはおもわない。利害さえ一致しているのなら、問題はないだろう。賀古井は表情の無い顔で、志茂居を見下ろしながら考えていた。
「部長」
 トイレに駆け込んだヒサキが帰ってくる。覚束ない足取りで、ユキが肩を貸している。青白い顔だったが、それでも全然ましになったのだろう。唇は青くはなくいつもどおりの色をしていた。
「部長、あの光っているのってなんですか?」
 そういって、加賀ヒサキは志茂居の死体の上を見上げている。夜空が広がるばかりで何も無いところを指差し、ヒサキは不思議そうに何かをめでおっている。
「そうか。加賀ヒサキ。君には見えるのか」




こいつを、ヒサキさんのにですね

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