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今日の「三題」話

■連載中のlog
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 既に夜。
 凛と、引き締まった夜空には満天とはいわないが星が煌いている。夜の校舎で切り取られた、黒い夜の水面はどこか寂しそうに風にゆれている。
 今ならば、見える気がする。ヒサキはそんなことを思いながら空を見上げていた。
 夜を湛えるダム、たしか図書室にあった本の中の一つに、そんな名前の本があった。見上げる夜空は確かに、水中から見上げる水面みたいに見えた。きっと、見えないけれどあの夜の向こうには、大きな光がまってるのだろう。
 肩では、なにか良くわからない物が何かを言っている。目の前で、部長がなにかを言っている。けれど、なんだかよくわからない。ヒサキは靄のかかった頭で、周りを見回している。

 志茂居が死んだ。いがいと、現実はすんなり受け止めたかもしれない。ヒサキは自分自身でそれをひょうかする。思ったよりショックではなかった、出会って数週間程度じゃ泣けないのか、なんてやけに冷めたことを考えている。
「加賀ヒサキ、時間が無い。その肩にいるモノは捨て置け。急いで学校から出る」
 何をいっているのか。同じ部活の人間が、目の前で死んでいるというのに。早く救急車をよばないといけない。いや、もう死んでいるのなら警察か。どっちなのだろうか? 良く知らないし、余り出くわさない自体に混乱だけが頭を駆け巡る。
「けいたさんが、けいたさんが」
 今にも泣き出しそうな。いや、すでに泣き声で肩でさけぶ変な物体。
「えーと」
 解らない。状況が飲み込めない。あまりに色々と起こりすぎている。
「沢村ステラは、こないか。まぁいい。加賀ヒサキいいから此処から離れるぞ。まずいのだ、このままこの場所に入られない。いそげ」
 言われるが、足は動かない。
 志茂居がそこにいるのだ。殺された? 早く警察を呼ぶべきじゃないのか。だいたい、誰に? いま自分の肩にのっているモノに? 志茂居が、殺された? でも、肩にいるやつは
「けいたさんが殺されたんです、けいたさん」
 どうしたらいいのか、まるでわかってないように同じことを繰り返している。まるで自分と同じだ。ああ、そうか――
 自分は悲しんでいるのか――
 そこに行き着いたとたん、まるでなにか抜け落ちたような感覚がヒサキを襲う。
 日常がかける感覚。疑問と、焦りと、不安がその穴に流れ込んでくる。
 なんで? どうして? まってよ。え? なにが……
「ちっ、もう来たか」
 賀古井の舌打ちに、ヒサキは顔を上げる。なにがきたのだろうか? と広がった視界を埋めつくす黒い姿。
「え?」
「賀古井君。まさか、まだいるとは。墓穴をほりましたか?」
 その声は、芳田の声だった。まえに図書室であったときの軍隊のようなものもつれていた。その軍隊のようなものは黒い服をきてぞろぞろと最小限の音をたてながら集まっている。
「確かに連絡をしたのは私だ。志茂居をこのまま警察にわたすわけにもくまい? これでも、私の友人であったのだから。解剖されるのはみるにたえん」
「へぇ? 貴方にそんな優しさが残っているとは驚きですね? てっきり友人の死体を売って、私からの追跡逃れでもするつもりだったのでは?」
 辛辣な言葉をはきながら、芳田はゆっくりと歩き始めた。
 校舎の裏、部活練のある場所は学校の生垣と、校舎にかこまれて外は全く見えない。
「芳田に恩を売るつもりはないな。ただの対価だ。通路の情報のかわりに、私の友を穏便に弔ってくれという」
「ですが、貴方は此処にいる。私はすでに余裕がないのですよ」 
 芳田の白いスーツは校舎を照らす薄明かりに照らされてぼんやりと光っている。後ろの黒い集団が全く光を反射しないぶん、やけにそれが目に付いた。そして、青白い顔。さらに、顔色が悪くなったのかそれとも夜だからそうみえるのか。
「悪いが今日は見逃せ。それに、通路がまだあいているとは限らない」
 ゆっくりと。気をつけていないと解らないが、ゆっくりと賀古井は後ろに、ヒサキの方に下がっている。
「ははははははは! それなら問題ありません。すでにそちらは押さえ済みです。ありがたいことにまた一つ通路が増えましたよ」
「あんなもの、いくらでも使うが良い。早く約束をはたせ芳田」
「残念ですが、もう一つ条件をつけさせてもらいますよ。あなた方には選択権はありません」
「なにを――」
「これ以上、白い人を殺すことはなりません。いいですね? 次は有賀の私設隊が、確実に貴方達を社会から葬ることになります。貴方以外にも、加賀君。あなたもですよ?」
 いきなり名前を呼ばれてヒサキはびくりと体を振るわせた。
「どうですか? 解りましたか? 飲めないのなら今此処で志茂居ケイタの死体は処分させていただきます。親元にもとどかず、行方不明として扱われ、すべて今後人類のために解剖されることでしょうっ! あははははははははは!」
 狂っている。ヒサキは、諸手をあげ笑う芳田を見ながら思った。あまりの狂気だった、でもその裏側に何か悲しそうな、泣き叫んでいる声が聞こえる。賀古井の舌打ちが響いた。
「そうか、わかった。白い人は――」
「そうです。もう誰も白い人は殺させません。それでいいので――」
「殺す」
 同時、賀古井のポケットから銀線が閃く。拙い光に彩られた銀の弧はどこまでも滑らかに、そしてすべるようにして数メートルという距離、賀古井と芳田の距離を詰めた。
「なっ」
「お前もしね」
 驚きの声を上げる芳田に、容赦の無い銀線が突き刺さる。

 乾いた音が響いた。
 
 しっている。テレビで聞いたことがある。映画や、アニメじゃきけないが、いまやいくらでも聞き覚えのある音。紛争の中継とか、そうそういうので良く聞く……。
 発砲音。
 まるでスローモーションのように、賀古井の体が傾いでいく。尾を引くのは銀弧ではなく、赤い鮮血。まるで容赦の無い凶弾に、賀古井は体制を崩しそしてそのナイフを芳田に突き立てることが出来なかった。



 加速開始。
 宴の始まり。

 

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