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今日の「三題」話

■連載中のlog
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ぶ」
 名を呼ぼうとした。でも、なにもならないのもわかった。
 そして、乾いた鉄の摩擦音がもう一つ。全く見えない暗闇のはずなのに、
「ちょ」
 体中に寒気と、恐怖が突き抜ける。
 銃口。汗が一瞬で噴出し、そのまま同時に蒸発した。体が表面から一気に冷えていく。血液に温度は無く、筋肉は既に肉ではなくて鉄。
「――あ」
 激鉄の落ちる音が、聞こえるはずも無いのに聞こえた。
 撃たれた。覚悟よりも、事実だけが頭でこだまする。
 と、倒れていくはずの部長が、とんでもない体移動をしていた。手を伸ばし、まるでヒサキを守るように。しかし、手のひら程度ではその凶弾は防げない。そして、あたりもしない。
 マズルフラッシュ。

 当たる、体が動かない。せっかく部長が、身を呈して助けてくれたのに。せっかく。
「失礼します。前に立つことをお許しください」
 耳に届いた声は。なぜか時間を無視してゆっくりときこえた。だれの、声だっけ? ヒサキは、動かない体を必至でなんとかしようとしながら考える。
 手を前に、無駄だと解っていても顔を守る自分が滑稽だった。その、手の隙間から何か黒い物が通り過ぎるのが見えた。
『あたる!』
 衝撃が来た。まるでなにか硬い物に当たったような、つんざく衝撃。血がでて――
「あれ?」
 痛くなかった。ヒサキは体中の力をぬき、手の隙間から周りを見回す。目の前には、
「無粋です。銃を降ろしなさい」
 ユキが立っていた。ああ、本当に彼女はロボットなのだ。凛とした声に感情はいつものようにない、だがどことなくユキは怒っている、そんなきがした。
 両手を前に、銃弾を受け止めたのだろう少し焦げた匂賀した。
「おやおや、都紙のメイドがどうして主人以外を?」
 芳田は、ユキを
「博士は生みの親です。現在、主人は加賀ヒサキ様に設定されております」
 その言葉に、黒い集団が一瞬ざわめいた。ユキは有名なのだろうか? それよりも、とヒサキは疑問に思う。いつ、自分は彼女の主人に?
「加賀……ヒサキ、ユキと契約した、のか。ははっ、こいつはいい、傑作だ」
 部長は、地面に倒れている。肩口を抑え、それでもしっかりと集団から離れこちら側にむかっていた。生きている! ヒサキは、一瞬ユキの影から飛び出しそうになり、ユキに止められて立ち止まる。
「部長!」
「間接とはいえ、口付けを交わしたので。契約は履行されております」
「え?」
 ……ヒサキの頭は爆発した。
 誰も見ていなかったはずだ。あのとき、家にはだれもいなかった。そう、誰もいなかったはずなのだ。ヒサキは何度も思い出す。が、やはりあの時部屋には自分しかいなかった。ユキが帰っていく姿をみたじゃないか。
 どっちにしても、ばれていることには代わりがなく、そしてそんな情けないことをしたことが、あろうことかこんな場所で公開されるとは。穴があったら入りたい。ヒサキは両手で頭を抱えて今にも叫びだしそうなほどに身悶える。
 が、はずかしがっているのはヒサキだけだった。周りは一気に緊張を帯びていた。
「はははは、そうですか。では加賀くんが君の今の主人だと、そういうことですね?」
「そうです」
「で、どうするのです人形? アシモフとか詳しくないですが、貴方はしってますか?」
「A robot may not injure a human, or allow a human to be injured」
 第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また何も手を下さずに人間が危害を受けるのを黙視していてはならない。
「A robot must follow any order given by a human that doesn't conflict with the First Law」
 第二条 ロボットは人間の命令に従わなくてはならない。ただし第一条に反する命令はこの限りではない。
「A robot must protect itself unless that would conflict with the First or Second Laws」
 第三条 ロボットは自らの存在を護(まも)らなくてはならない。ただし、それは第一条、第二条に違反しない場合に限る。
 流暢な英語で、ユキは答えた。そう、ロボットならば人間に危害は加えてはいけないのだ。そして、ロボットは人の命令とあらば自らの存在を捨て命令を実行する。
 なんて酷い。そして醜い決まりだろう。まるで、ロボットという存在はただの道具以上になってはいけない、そういっているようではないか。ペットですら、自分を守るために吼えたり逃げ出したりするというのに。ヒサキはユキの言葉を聞きながら考える。
 漠然とした納得のいかなさにさいなまれていると、芳田の声が飛んだ。
「良くご存知ですね? では貴方は壊れるまでヒサキ君をまもって鉄くずになりなさい」
 芳田の振り上げた手は、まるで指揮者のほうに演奏を合図する。黒い集団が、合図にあわせ銃を構えた。赤いレーザーポイントがまるで磁石に吸い寄せられるようにユキの体に集中した。死の演奏がその手一振りで始まる。いやな緊迫感。ヒサキは、前を見る。部長は全く諦めたそぶりも無くひたすら此方にむかって這っていた。
 助けに行けば殺される。ヒサキは動けないままただ、呆然と周りをみていた。
 ロボットのユキが人を傷つけることは出来ない。例え、銃弾をつかめるからといって、限界はある。いつしかユキはその雨のような銃弾に穿たれる。そんなことは明白だった。防御しかできない、それがどういう意味か考えなくても結果は見えていた。
 逃げれば? 考えたくも無い選択肢がヒサキの頭をもたげた。自分をまもりつつ、賀古井を保護し、志茂居を保護しこの場所を離れる? それこそ、無理な話だ。どうしよう、やはりここは頭をさげて。ヒサキが、足を踏み出そうとした瞬間。
「問題ありません」
 ユキは、静かにヒサキの前に立ったまま呟く。
「なにがですか?」
「我が主人に、銃を向けるものは」
 ユキは腰を落とし構える。
「人でなしと判断します」
 黒が吼えた。




ユキの屁理屈。(web拍手)

お詫び:
 表記に誤りがありました。有羽ではなく、有賀です。申し訳ありません。以後ないように気をつけます。

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