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今日の「三題」話

■連載中のlog
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 歩くには十分。だが、走るには暗い。夜間照明なんていうのは、その程度で十分なのだろう。だから、黒いメイド服が踊る姿はヒサキにとってただ黒い風のようにしか見えなかった。
 結果だけは彼にも目に見える物だった。いや、結果を見る前から理解できる物だった。だから、彼は叫ぶ。どうしても、そこだけは越えては行けない、そんな気がしたから。
「殺さないで」

 搾り出したようにでた呟きは、肌を切り裂くような風と服を剥ぎ取ろうとする衝撃にかき消された。声が届いたかどうか、ヒサキには解らない。肩に乗っている何か良くわからないモノも息をのんで黒い疾風が踊る様を眺めているようだった。

 あまりにもあまりな。火を見るより明らかな。決定された。運命づけられた。
 確定、常規、結論。規定。
 どれだけ並べ立てたところで足りないほど、絶対的に終わっていた。
 まるで、物語のエンドはハッピーなのだと信じて疑わないほどの結果が、目の前に転がっている。倒れ付す黒い固まり。光をほとんど反射しない服に身を包んだ有賀の私設隊。
 噂話では、私設隊は軍事国家の一個大体をもしのぐ、なんて触れ込み立ったはずだ。ソレが、事実かどうか、そんなものは知りはしないし、噂と事実を履き違えるほどにヒサキの頭はひよっていない。
 圧倒的。決定的な差。一つの発砲音すら確認できないまま、黒い服に身を包んだものたちは地に付していた。
「鎮圧完了しました」
 気がつけば、ヒサキの目の前にユキが立っていた。ヒサキは、驚きながらも彼女に視線を移す。視線に気がついたのか、ユキはヒサキに向けて静かに一礼。
「大丈夫です、動けなくしただけです」
 その言葉に、ヒサキは体中の力が抜けるような感覚を覚えた。
「さすがは都紙博士の、最高傑作といったところですか? 全く予想通りですが、まぁ残念でもあります。彼らは対人部隊ではないですし、仕方ないでしょう」
「対応種別の少なさを言い訳や慰めに使う行為は、己を落とす下卑た行為だと知りなさい」
 ユキの辛辣な言葉に、芳田は肩をすくめて笑った。
「これはこれは、手厳しい。流石はDECUPLE"A"。全知全域全重全天候全時間全兵器全距離全方位全速度全状況対応型ユビキタス・キルといったところですか」
 ユキのフルネームを並べ立てながら、芳田は楽しそうにしている。照らされる輪郭が、笑うように残光を残していた。ユキはそれを睨みながら呟く。
「我が主人の前に立ちはだかって、――」
 そして、そこで言葉を切り、ヒサキをかえりみた。人工の光に照らされたヒサキは弱々しく、ユキを見返している。
「意識を持っていられる結果は皆無」
 えらく語呂が悪くなったが、ヒサキの少し緊張の取れた表情をみて、ユキはそれでよかったと判断。再度芳田を睨みつける。
 殺せないということは、ユキにとっていかほどに難しいことか、ヒサキは解っていない。F1が道路を法廷速度を守って進むほうがどれほど楽だろうかとユキは考える。生活圏内での作業モード以外には、戦闘モード以外に選択肢はない。
 戦闘モードの出力は、重戦車や巨大建造物破壊、空中戦闘をも視野に入れている。それこそ、DECUPLE。それでこそ、DECUPLEなのだ。何者にも屈せず、何者も寄せず、最短最速最大の結果を持ち帰るためのシステム。
 だから、人間一人殺さないなんていう行為は逆に想定外になっていた。
 しかし、横にいる少年。高校一年生になったばかりの少年はどこまでも優しかった。ユキは考える。自分を人間だといった主人のことを。形つくられた物質の差など何か意味があるのかといった主人のことを。目の前の主人は、どこまでも垣根の無い人間なのだとユキは思う。
 賀古井が言ったように、執着のなさからくるそれは本当の優しさかどうか解らない。ユキには心は良くわからなから。ただ、その執着のなさは、相手の人間にまで及ぶほどに広く、そして脆い。あの時、ユキがそんなことは不可能だといえば、彼は口を噤んだだろう。納得し、諦めていただろう。
 だからこそ、ユキは無言で命令を実行しなければならなかった。主人の本心は、ただ一度だけ呟くようにしか出てこない。いつでも自分から引き下がり、諦めてしまう。だから、ユキが諦めるわけには行かなかった。妥協するわけにはいかなかった。
 それが本当の優しさなのか、それともただの執着のなさからくる諦めなのか、わから無いが引き下がるわけにはいかなかった。
 その願いにどれだけの演算と、どれだけの負荷を強いられてもユキはやり遂げる必要があった。
 そして、それこそがユキの願い。だから――
「問題は、ありません」
 主人に向かって、笑う。
 ヒサキは、ユキのその笑顔をみて笑い返した。そして、思い出したかのように青ざめる。
「あ、志茂居先輩! ユキさん、先輩をっ。部長も!」
 賀古井は出血を自分で止め、応急手当も既に終えていた。なんて人だろうか、全く妥協も諦めも知らない人なのだろう、ヒサキは驚愕する。痛みすら賀古井を止める要因にはならなかった。
 そして、もう一人。志茂居は、やはり動いていない。あの場で仰向けに倒れたままだ。
 既にヒサキには、誰が志茂居を殺したのかなんてどうでもよかった。もしかしたら、まだ間に合うかもしれない、そんな思いだけが胃のそこあたりで低温で沸騰している。
「ユキさんっ、早く。志茂居先輩が」
 ヒサキの言葉に、ユキは事実を伝えられない。
 既に生命活動停止から三十分以上。首を一線された切り傷からは、暗がりでよく見えないが大量の血が流れ出た後だった。
 詳しく確認はしていないが、少なくても頚動脈を切り刻んだそれは、刃物。力による断裂は確認されない。外傷は一点、死因は一点。どうしようもなく志茂居は死んでいる。
 だが、それをしらないヒサキは志茂居が助かる物だと思っている。そして、ユキが一言事実をいれば、彼は諦めてしまうのだろう。だから、ユキは頷く。
「わかりました」
 一瞬にして距離を縮める。それは悪あがきも、ただ諦めの悪い行為でもなく、純粋に志茂居ケイタを助けるという動き。
 だが、白い影が割り込んできた。ユキの視界でも、ぶれて移り判別が出来ないそれは一瞬という時間を切り刻んで割り込んでくる。
「!」
 衝撃。
 それは、音というには余りにも激しい波。校舎の窓ガラスが割れるのでは、と思うほどの衝撃。
 驚いたヒサキの視界には、白と黒のモノトーンが志茂居のすぐ傍で立ち止まっているように見えた。
 白は髪の毛の色だった。服も白く、どれほど闇の中にいても潰れ様も無いほどの純白が揺れている。長い髪の毛だった。鋭い眼光、一辺の揺るぎも無く存在している意志をそのまま表したかのような目つき。薄く引き締まった唇だけが赤く、そこだけが色を残している。
 真っ白な髪の毛が闇夜を払って風にゆれた。
「あ……」
 賀古井が息を漏らすように呟いた。
「有賀……真衣」
 名前を呼ばれた彼女は、一瞬賀古井に視線を飛ばし、すぐにユキに向き直る。
「引きなさい。自分たちが何をしているのか解らないわけではないでしょう?」





あと二回以上になってる、Web拍手


 進むようで進まない。
 あと、いろいろ詰まってきた。将棋とか。

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