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今日の「三題」話

■連載中のlog
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 音はしなかった。
 ヒサキはその場にへたり込んだまま考えていた。
 強い風に転び、そのままヒサキは二人の成り行きを眺めていた。風はまだ吹いている。まるで熱風なのは、強烈に圧縮された空気が発する熱か、それとも二人が発する熱か。
 激突音はまるで、リズムを刻むように咲き乱れている。
 部室練が並ぶ校舎裏は、ただでさえ非日常的な雰囲気のその場は既に人外が踊る舞台とかしている。淡々とその舞台を照らすのは、校舎の夜間照明という拙いにもほどがある光のみで、特に彼女らが光を発することは無い。

 部室練は長細く、ヒサキの目の前に長い廊下の入り口が見える。あの奥には運動部の部室が連なっているのだ。しかし、今それは見えない。黒い服を来た人の山が入り口にうずたかく積み上げられている。有賀の私設隊をユキが放り投げた結果だった。そして、私設隊をつれてきた芳田は彼らをどうにかし様ともせず、人の山を背に立っている。
 そして、芳田とヒサキの間、いまその場所が舞台の中央だ。
 
 ――復プロセス開始。エラー。右上腕に損傷。稼働減損率に変動なし、稼動領域減損一割。擬似血液内、酸素濃度減少、ブラックアウト予測残り五十時間。エラー。左肺、外部要因により呼吸量に四割の損失。ブラックアウト予測残り時間四五時間。回復プロセス開始。エラー。左足首、稼動減損率危険値に到達、現在八割超過。エラー。右肩稼動――
 エラーと状況を伝えるログが、永遠と視界の端を流れている。流れるような攻防は、ログが間に合うレベルをはるかに超え、既にメモリスタックにより使用できるメモリは半分をきった。
 それでもユキは、前をみつづけている。冷却が間に合わないCPUが悲鳴をあげている。端から順、ゆっくりと最後の悲鳴をあげながら一つ、また一つと応答がなくなっていく。
 そのたびに、ユキの動きはわずかながら遅くなる。
 ――まだサブシステムしか潰れていません。
 メインを守るため、焼け落ちていったCPUと反応がなくなったメモリは既に数十を下らない。それでもユキは攻撃の手を休めることはなかった。
 右に軸をぶらし、真衣の拳を避ける。
 当たらないと思ったのか、真衣は慣性を打ち抜くような速度で、右拳を袈裟に打ち下ろす。軸をぶらし真衣から見て左、潜り込むように拳を避けたユキの頭頂部、右の拳がまるで必ず当たるといわんばかりの軌跡を描いて打ち込まれる。
 が、ユキは逃げなかった。さらに加速。その最後の踏み込みで左足首は既に応答をかえさなくなった。だが十分。前に飛ぶようにユキはほんの数センチの距離を詰める。
 ――捕らえました。
 壊れたのなら、もういらないとばかりにユキは左足を振り上げる。既に膝下は自分の体ではなくただの物体と成り下がっているのだ、ためらう必要はない。
 しかし真衣はすべてを読んでいた。ユキの左足に反応がないことも、それを捨ててくるであろうことも。吹き上がるような、視界では捉えきれない速度の蹴りだ。だが速度だけ、既にソレを固定するギアもシリンダも動いてはいない。振り下ろした右手の慣性を利用して真衣は体をくの字に曲げたまま上半身を回転、ユキの左足を巻き込むようにして速度を逃がす。すぐさま、振りあがっている足をホールド、曲芸のように着地した真衣。そして、蹴り上げた足は魔法のように真衣をすり抜け空を切った。
「なっ」
 ユキは、思わず出た声に自分で驚く。有賀真衣の反応でも、攻撃の組み立て方でもない。一体どれだけの経験をつんだのか、まるでユキのやることが解っているかのようだった。
「残念ね。ユキ、貴方の敗因は間違いなくその少年を選んだこと。大人しく、壊れなさい」
 ユキの視界がぶれた。
 喉を。
 考えがいたる瞬間、既にユキは重心だけをのこし、その場で反り返り、そして天地がひっくり返る。
 後頭部から地面に到着した瞬間、更に首に慣性がかかり、摩擦がかかり、足が浮き上がる。
 自分が蹴り上げた足の動きすら利用され、ユキはその場で立てに回転。勢いにのって、そのまま背後へと吹き飛んでいった。
 ――エラー。重大な損傷を確認。回復プロセスを開始。現在発声機構は使用不可能です――
「ユキさん!」
 ヒサキが駆け寄ってくるのを、ユキは仰向けになったまま眺めていた。
 ――まだ、まだ……
 見上げたヒサキの顔は、今にも泣きそうで、伸ばした手で頬を拭おうとしてもその手をヒサキにつかまれた。
「もういいよ。ユキさん、もういいから……」
 殆ど反応を返さなくなっていた顔の触感機構が、水に濡れたと呟いた。
 
 黒と白の旋風。色をついた風というのがあるとしたら、きっとこんな感じだろう。ヒサキは、そんなことを考えながら二人の戦闘を、二人の舞台をみていた。
 それは、あまりに凄惨で単純で、そして美しかった。
 だから、これっぽっちもヒサキはユキがまけるなんて考えてもいなかったのだ。
 じっとしていた。その場から動こうとも思わなかった。
 ユキが、吹き飛ぶまでは。
 まるで竜巻から吐き出されるように、ユキが吹き飛んだのだ。今まで黒と白の台風だったソレは、一気に色をなくし、風をとめる。
 体中に裂傷と打身をつくった有賀真衣が立っていた。そして、吹き飛ぶユキの姿。ヒサキから離れない、そんな決まりでもあるかのように、目の前に。ヒサキの目の前にユキが吹き飛ぶ。
「ユキさん!」
 ユキが手を上げたので、ヒサキはソレを掴んだ。力なく、震える手からは、ギアとシリンダの擦れる音がひびいていた。
 ああ、この人はやっぱり人間ではないのだ。
 そんなことを漠然と考えながらヒサキはその手を握る。
「もういいよ。ユキさん、もういいから……」
 歪んだ視界のむこう、ユキが泣きそうな顔をしていた。




 珍しくスタンダードにね。
 このまま駆け下りてラストまで。伏線回収に手間取りそうでは在りますが。
 うん、いいかげんしっかり構成練らないとダメだと思った。

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