スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

今日の「三題」話

■連載中のlog
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 学校の裏門から出た瞬間、春の冷たい夜風が頬をかすめる。「向こう側」から出たのだと、思った瞬間、また「向こう側」の臭いがあたりを覆った。
 大きくなっている?  疑問に前を見ると、志茂居を担ぎ上げた男も気がついているのか、一度上をみあげしたうちを一つ。
「加賀ヒサキ、急げ。原初がくる。原初でも向こう側に落ちた。急げ、取り込まれるぞ」

 賀古井の言葉が飛んでくる。どういうことだろうか、取り込まれる? 彼女にそれをする理由があるのだろうか。見捨てられた恨みだろうか、殺せなかった結果が招いたことなのだろうか。
 抱きかかえ上げたユキは、固い音を立てている。あの研究施設にもっていったら直るだろうか、ユキを作った博士なら治せるだろうか。
 博士は助手ともども行方不明。でも、例えいたとしても。
 ユキは帰ってこない。それがなぜか理解できた。
 ヒサキは走りつづける。きっと志茂居も助からないのだろうと、心のどこかが納得している。でも、肩で叫んでいる光る不思議な生き物は、これっぽっちだって諦めてなんかいなかった。
「ケイタさん! ケイタさん!」
 自分も、叫べたらいいのに。だったらせめて、諦めない肩の生き物に付き合おう、ヒサキは走りながら思う。

 横を駆け抜けていった。部長と、一度「向こう側」で助けてくれた男の人と。
 ヒサキ。
 ステラは、駆け抜けていった三人と、男に担がれている志茂居と、ヒサキに抱きかかえられているユキというメイドを眺めていた。
「どーすんだよ、追いかけるのか? 諦めて帰るか?」
 頭の上の声に、ステラは答えない。ワンは反応しないステラを見下ろしながらくるくると夜空を回った。できれば帰りたい、ワンは思う。魂喰らいがいるとは思わなかった。
 メイドが死んだとき、あの瞬間ごっそりと何かが喪失した感覚。アレは間違いなく魂を喰らうときの喪失感。ごっそりと、何かが抉り取られるような、噛み千切られるようなそんな感覚。ワンのような魂の存在の唯一の捕食者。食物連鎖の一番上にいる存在だ。
 しかし恐怖は無い、アレは高濃度でなければ興味どころか、自分は見えていないはずだから。メイドが死ぬときの魂の濃度は、危うく自分も取り込まれるかとおもったほどだった、おそらくそういったレベルでないと、あの魂の捕食者はワンのような存在を気にもとめてないのだろう。
 だからといって、全く怖くないといえばそれも嘘だ。唯一の天敵にはかわらないのだから。
 そんなことおくびにも出さず、ワンはステラに声をかける。
「さぁ、どうするんだ?」
 ステラは頭上の言葉に反応したのか、ゆっくりとその場を離れていった。立ち上がった芳田と目が合った気がしたから。
 なんだか嫌な感じがしたが、やはり良くわからない。この気分が一体どこからきたのかステラは気がついていなかった。きっと、志茂居が死んだからだとステラは思い込むことにする。
 ヒサキが、泣きながらユキの名前を叫んでいた。あの悲痛な声が頭から離れない。でも、この胸の気持ち悪さは、きっと先輩が一人しんだからだ。そうにちがいない。
 ステラは歩く。ヒサキ達とは逆側、白い人が追いかけていった方向とは逆に、淡々と足を踏み出していく。すぐに「向こう側」から抜けた、その感覚にステラは一歩たたらを踏んだ。
 ワンも不思議そうに後ろを振り向く。
「向こうから消えた感じだったな」
 確かに、とステラもゆっくりと首を縦に振る。振り向いた空はいつものように星はなく、「向こう側」と何も変わらない真っ暗な夜空が広がっていた。
 と、携帯が震える。珍しい出来事に、ステラは一瞬体をビクリと振るわせた。
「はい」
 番号も確認しないまま、ステラは電話を取る。
『あ、すーちゃん。あのねあのね』
 自分のことをこんな名前で呼ぶ人間は一人しかいない、ステラは相羽の顔を浮かべながら電話越しの彼女の声を聞いた。
 相羽にも電話がいっていたのかと、ステラは思う。自分の電話にも賀古井から電話があった。結局電話は取れなかったのだけれど。
『ぶちょーしってる? 電話あったんだけど取れなくて。今つながらないんだ』
 言葉にカブリをふってから、ああ電話だったとステラは気がつく。
「いいえ」
『そかー。うん、わかったありがとね。あ、そうだ。今日はごめんね』
 始め、相羽が何を言っているのかわからなかったステラは、首を傾げる。何のことだろうかと考えて、やはり判らなくて首を傾げた。
「昼のことじゃねぇの? 俺いなかったから解らないけど」
 ワンが頭の上で腕を組みながらつまらなそうに呟いた。昼に、駅前に行くときにおいていったのがきにくわないらしく、ふて腐れた顔をそらす。
「いえ。大丈夫です」
「それより、あいつ等はしっていったこと伝えたら? 電話そのことだぜ」
『そか。ゴメンネ、又遊びにいこうね』
 相羽の声は少し沈んでいた。気にすることはないというのに、そう言うものなのか。ステラは思う。
「あの、部長達が」
『ん?」
「どこかに走っていきました。学校から」
『えーと。ああ、そうかすーちゃんにも部長から電話いってたのか。部長と他にはみた?』
「知らない人と、ヒサキが一緒にどこかに」
『へぇ』
 その声が意味するところを、ステラはわかっていない。ステラは自分の声に感情がまじったことに気がついていなかった。
『ひーちゃんになにかあった?』
 え? と、ステラは思考停止する。
 思わず思い出したのは、ユキを抱きかかえうな垂れるヒサキの姿。ユキの名を叫ぶヒサキの姿。そして、ユキと肩を寄せ合い歩いていた姿。そして、ユキを抱きしめて走り去るヒサキの、
「ひ、あ……」
 涙だった。そう気がついたときには既に堰きは決壊し、とめどない流れとなって頬を伝っていた。何でこんなにも悲しいのか。こんな感情が自分にも残っていたのか。
『ちょ、ちょっと。すーちゃん!?』
「ひっ……ぁ」
 ワンの声が遠のいてるのが解る。叫んでいるけど何もかもが流れそうなそんな気がした。急いで押さえないと、ワンもいなくなったら自分は。
 自分は、何も残らないじゃないか。
『ちょっと、今からいくから! すーちゃん今どこ?』
「が……こう」
『わかった! 待ってて』
 電話がノイズを残して切れた。涙は途切れないで流れつづけている。ワンの声はそれ以上は薄くならず、遠くで叫んでいる声だけは聞こえている。落ち着いてきているきもするが、油断するとすぐに悲しみが胸の辺りし締め付ける。
 なれない感情の波に、ステラは蹲り、膝を抱え涙を啜っている。夜の学校でしゃくりあげる泣き声が静かに響いていた。





ヒサキのスゴイスキル

 もう80回を数えました。うーん、長い。連載形式で進めていたので伏線回収が大変です。打ち切りってマジで大変なんだな……。

スポンサーサイト

コメント
トラックバック
この記事のトラックバックURL