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今日の「三題」話

■連載中のlog
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 走り去っていくヒサキ達を、芳田は蹲りながらただ見ていた。
 また、逃がしてしまった。
 かみ締めた唇から血の味がする。横では、静かに有賀真衣がたたずんでいた。白い服に白い髪、そして白い肌。まるで「白い人」を模したようなその格好に、芳田は今更感慨はなかった。
 既に、少女といっていい容姿にまで巻き戻った彼女を始めてみたときは、握り締めた拳から血が滲むほどの憤りを感じたのに、今となってはそれもない。
 原初の三番。「向こう側」へ落ちてしまった少女も、既に精霊憑きの死体を追って見えなくなった。全く何もかもが上手く行かない、芳田は舌打ちを一つして立ち上がる。

「さてと。芳田さん? これ以上は有賀も黙ってみてるわけには行かなくなりましたが」
 有賀真衣が視線も合わせずに言う。白い、本当に真っ白な純白の髪がかすかな風になびいて揺れる。肩の下まで伸びた白い髪の毛は、陰すら落とさず彼女とともにあった。
「流石に、殺すしかないのでしょうかね。まさかユキさんが加勢してくるとは計算外でした」
「殺さず捕獲というには、余りに相手を舐めすぎました。いきなりの編制とはいえ、やはり手加減して無力化させられるほど、甘くはないですね」
 賀古井の電話をうけてから、動かせる有賀の私設隊を編制し、芳田と共に向かわせる。真衣は通路を使い原初をおびき寄せつつ合流。その時点ですべてが終わるはずだった。
 賀古井は確実に加賀ヒサキと揉めてその場から動かない、だから全てそろうはずだった。
 精霊憑きの死体、「向こう側」に落ちた原初、賀古井と有賀の両名。全てそろうはずだったのだ。だが現実は賀古井の思惑通りに進んでいた。死体は奪われ、原初も既に死体に引き寄せられ手から離れた。
「アイツは、何を考えている」
 真衣は賀古井が逃げ出す姿を思い出しながら舌打ちを一つ。後一歩、すべてが終わるはずだったのだ。それを……。憤りに、真衣の表情が歪む。
「白い人の殲滅でしょう」
「それは表向きだろう? アイツが集めた人間を見ればまるで……」
 最悪のシナリオに、真衣は背中に鳥肌が立っていくのがわかる。
「間違いなく早送りのそれですね。志茂居君が殺されたのも、その一環か……もしくは私たちの動向を察知して崩しにかかったか。確かに今のタイミングは予想していなかった」
「加賀ヒサキを拘束、出来なければ殺すしかない」
「ステラさんは、置いておくのですか?」
「妖精憑きが死んだ、放たれた妖精がどこにいったが知らないが、もう原初が妖精を手に入れるか、原初が「向こう側」落ちきるまで加賀ヒサキと賀古井は逃げつづけるしかないだろう。今、沢村ステラを探して消すよりは、走り回っている加賀ヒサキをねらうのが順当だ」
 原初が唯一つかめる、藁とも言うべき妖精、最後の望み。志茂居ケイタに憑いていたそれは、志茂居ケイタが死んだ今、主を失い死体の周りで漂うのみの存在になっているはずだった。原初との接触で、原初は「向こう側」から帰ってこれる、そのはずだったのに。
 既に志茂居の死体は奪われ、原初はそれを追ってこの場からいなくなった。減らせるはずだった賀古井の手ごまは逆に増えたのだ。
「できれば殺したくないのですがね。原初が上手いこと、妖精と接触できれば全て丸くおさまるのですから。それに「向こう側」に完全に落ちた原初が一人いたってまだ終わりはしませんよ」
 芳田の言葉に真衣が首を振った。
「既に加賀ヒサキはユキの破壊で乖離しかかっている。時間がない。放っておけば剥がれ落ちるのは目に見えている。そうなれば、合計四名。私と、賀古井と落ちきった原初と……」
「もう余裕は無い、と」
 余裕を無くしたのは、自分自身じゃないか。出そうになった文句を芳田は飲み込み、寂しそうに空を見上げた。すでに「向こう側」から出た空には星はなく、のっぺりとした黒い闇が横たわっている。
「もう、世界が剥がれ落ちるまで時間が無い。加賀ヒサキは任せる。ムトウは……あの男は私が止めよう」
 止められるとは思えないが、真衣は視線を落とし呟いた。魂喰いになってしまった、あの男はどうせユキの願いを消化しきればいなくなる。時間稼ぎができればいい、ほっとけば勝手にいなくなるだろう。
 どうせ死んだところで。
「またやり直すだけだ」

 賀古井は走っている。弾丸があけた右肩の穴は、既に止血が施され今は心拍するたびに痛みが走る程度である。横を走る男に目をやる、だがそれは何度見ても知らない男だ。加賀ヒサキはしっていたようだが……。
「考えても、しかたがないか」
 予定が少しだけくるっただけだ。殆ど予定通り。
 志茂居の死体に群がるように芳田と有賀真衣が現れた。なんとわかりやすいのか。本来なら相羽や湯木、それに沢村もその場にいたはずだが電話がかからなかったので諦めた。ユキが加賀と共に来るのは向こうには予想外だっただろう。全部仕組まれたことだとしったら、彼らはどんな顔をするだろうか。
 ユキがいれば、少なくても芳田も有賀の私設隊も物の数ですらない。有賀真衣がくれば、原初が共に現れるのは明白だったし、それまで志茂居ケイタの死体が、正確にいえば志茂居ケイタの死体についている妖精が、向こうに確保されなければよかった。
 原初はあのままで居てもらわないと困る。せっかくあの時、加賀ヒサキにわざと攻撃を止めさせた意味が無い。
 まぁ、原初一つぐらいどうでもいい。
 賀古井は笑う。どうせ、加賀ヒサキも沢村ステラも仲良く剥がれ落ちるだろうから。
「まったく」
 加賀ヒサキのおかげですべてがスムーズだ。
 賀古井は笑う。
 ユキも上手いこと有賀真衣と打ち合って壊れてくれた。これで加賀ヒサキがすべてに気がつき、拒否したとしても彼を守る物は居ない。
 あとは、いま原初と妖精を引き合わさなければ完璧だ。いや、もう面倒だからすてていくか。
 そんな考えに、賀古井は一度頭をふる。
「予備は多いほどいい」
 口元が引きあがっていくのを、賀古井は自分の力で止められなかった。
「先輩、あれって……」
 ヒサキが心配そうな声をかけてきた。ずいぶん走っているのに、ユキを手放そうとはしていない。何度も押し迫る「向こう側」の感触から逃げるように彼は走りつづけている。
「あの時病院でみごろした、「向こう側」に落ちかけている原初だよ」
「……」
 自分のせいだと思っているのだろうか。賀古井は無意味なざんげだと心の中で笑う。
「気にすることは無い、今はやれるべきことを考えるべきだ」
「あの、アレは一体なんなんですか。なんのために僕らを……」
「原初は元から「向こう側」に行きやすい人間のことだ。だからつれてこられなくても「向こう側」にいってしまう。ゆえに、向こう側に完全に落ち込んでしまう可能性があるというわけだ。しかしまだ彼女は完全に「向こう側」へはおちきっていない。まだ「白い人」ではないのだ、半分はまだこちら側、だから意志が残っている。追いかけてくるのは、間違いなく私たちと面識があるという一点だ。幽霊のようなものだ、思考が固定されているために向こうも必死なのだ」
 嘘だ、賀古井は思う。間違いなくあの原初はもうこちら側が見えていない。加賀ヒサキのすがたは見えていない。見えているのは加賀ヒサキの肩にいるであろう妖精と、自分だけ。
 妖精だけを引き渡せれば成功、自分が接触したら連れこまれる。
 賀古井の額に汗が浮かぶ。向こう側に行けば、既に死体もどうぜんだ。
 死んでしまったら元も子もない。
「もう、やり直せない」



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 というわけで、伏線第一段階取りまとめ&回収。
 夏休みまでには最終回に行きたいとおもっていおります。

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