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今日の「三題」話

■連載中のlog
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 何度目だろうか。
 何度、こうやってピースをはめるように一つ一つ、一歩一歩進んできただろうか。
 賀古井は、目の前の男の背に。いや、部活の先輩に、既に卒業した男にナイフを突きたてている。ためらいはなかった、既に狂いそうな心を押し止めるだけで精一杯の理性は、もうこの程度ではびくともしない。
 ナイフを捻り上げ、わき腹の筋肉を抉る。
 時間切れまで幾許の間もなくなっている、少し焦っている自分に賀古井は皮肉めいた笑いを浮かべた。

 いまだ、それだけの心は残っているのか。
 ナイフを握る己の手は、頼りないほどに小さくなった。かわりに世界はずいぶんと大きくなった。何度、何度だろうか。
 何度、自分は巻き戻ったのだろうか。この世界はいつから同じ時間を回り始めたのだろうか。
 原因はいま目の前に居る男だ、そして、このままではまたもとの時間に戻る。
「もう、これ以上戻るのは問題だ、そろそろ私の体も言うことを聞かないほど幼くなっている」
 両腕で、ナイフを押し込みながら賀古井は呟く。
「部長?」
 もう、これ以上幼くなれば生活すら困難だろう。子供は良くこんな体ではしゃぎまわれる物だ、賀古井は笑った。
「ぶちょー……」
 目の前には志茂居の死体。そしてそれを背負ったまま身動きが取れない、ムトウ。驚きで腰を抜かした加賀ヒサキと予定通りに学校にむかって来た相羽カゴメ。
 完璧だった。全て予定通りだ。ユキが死に、ユキに抱きつき泣き崩れるヒサキをみたステラはこの時間からいつ剥がれてもおかしくない状態に在るはずだ。そして、自分のために死なせたことに悔やみ加賀ヒサキも剥がれ落ちるだろう。
 自分と有賀真衣。既に剥がれた二名にあわせ、のこり二名。合計四名。四人も剥がれればこの時間は永久のループから抜け出すことが出来る。
 もうすぐ芳田と有賀真衣が追いつく頃だ。原初は先ほど斬りつけてある、すぐには動けないだろう。元は少女、それに例え妖精を手に入れても戻れるのは一人。あの少女を入れれば合計五人、一人戻ったところで確実に四人がそろう。
 やっと終わるのだ。体に染み込んでくるのは、体中の力が抜けそうなほどの安堵。しかし、此処で失敗するわけにはいかない、芳田と有賀に邪魔させるわけには行かない。気を引き締め、手に力を入れる。半分ほど埋まっていたナイフは、その勢いで全てムトウの体に沈んでいった。
「あああっ……!」

 「向こう側」は、静かだ。
 加賀ヒサキは、地面にへたり込みながら星の無い夜空を見上げて思う。
 目の前で、叫び声を上げている男と、原因の部長の比べてみてもなんだか心がついてこない。
 何かしないといけないのに。呆けたままヒサキは二人を見上げる。二人を挟んで向こう側に相羽先輩がいた。
「ぶちょー……」
 カゴメの言葉に、賀古井の腕が反応する。
「あああっ……!」
 呼吸すらままならないのか、男の叫びは途切れた。痛みに顔を歪ませ、逃げようと体をよじろうとすれば押し込むようにナイフが動く。いつ倒れこんでもおかしくないその激痛を、男は必死で絶えるように歯を食いしばっていた。
「もう、巻き戻るわけには行かない……これ以上はまてないのだ」
「な、なにを」
 部長は何を言っているんだ。ヒサキは賀古井の言葉を反芻するが全く意味がつかめないでいる。
「この男の所為で、いま世界は、崩壊しかかっている。いや、いいかたが、大仰すぎる、な。このままでは、誰も気がつかないまま永遠の時を回りつづける、ことに、なるのだ」
 ヒサキは首を傾げる。腕の中で、ユキが軋んだ。
「私と、有賀真衣……ただ二人だけが現在時の巻き戻りの影響から外れている。この体を見ろ、この体で何故加賀ヒサキはおかしいと思わない。この、体、どう見ても小学生のそれだ……わかるか、私と有賀真衣だけが何度も巻きもどされてる。いや、いいかたが、わるいか。世界はある一定の時期を基点に一定の時間の後基点に戻る。つまり円を描いている。本来それは螺旋の動きで過去と重なることは、ない。だが、馬鹿のおかげで螺旋の上と下がくっついた。バネからドーナッツへと形を変えたのだよ」
 馬鹿の言葉と同時に、ナイフにまた力が入る。刺された男は残りの息を吐き出させられうめいた、
「バネだった時間は、ドーナッツへ。本来時間は交わらないはずなのに、時間が交わるというとんでもない事態が起こっている。だが、誰もそれを意識することは出来ない。時が完全に巻き戻るのだ、例え途中に何があっても、世界が滅び様が、誰が死のうが、はじめに戻ることになった。だから、誰も気がつかない。ただ、取り残された私と有賀だけが、その事実を知ることになった。代償はこの体だ。一度巻き戻るたびに、誤差が生じる。理由はわからない、だが確実にこの体は巻き戻るたびに若返った。六百回ほど巻き戻ったときに気がついた、計算では多分一度に巻き戻る量は一日程度だ……有賀はもっと巻き戻っている。だからアレは私の未来でもある」
「な、なにを……」
「理解などしなくてもいいさ、ただ一つだけしっておけ。この世界はループし、君が殺した幾人かの白い人、あれは――」
「それ以上はなりません」
 芳田の声が飛んだ。驚き後ろを振り返れば、芳田と有賀真衣、そして有賀の私設隊が追いついていた。原初は、と視線を巡らせると賀古井が吹き飛ばしたまま、動いていない。というより蹲っている。なにをされたんだ。疑問に答える物は居ない。
「加賀君。賀古井君は、世界を引き剥がそうとしてるのです。事実、賀古井君と有賀さんの二人でも世界が元に戻る兆候がある。あと数人、彼らと同じ境遇の人間が居ればそれが達成されるのです。立ち止まった時間が進むかもしれない」
「え? え……」
 つまり、世界はループしているらしく。しかもループを元のものに戻そうとしている。部長が? じゃぁ、
「でも……何がいけないんですか」
「気がつかないのですか」
 芳田の顔が、苦痛に歪む。次の言葉が紡げない。そんな表情をしていた。
「私が言おう」
 有賀真衣が前に、白い、どこまでも白い彼女がヒサキを見た。
「この時間に取り残された私たちは、既に邪魔者。偽者。本来の時間は既に形を取り戻し普通に未来へと向かっている。いま、貴方が感じている”今”は既に全てから切り離されただグルグルと滑稽に同じ場所を回ってるだけのゴミ」
 え?
「つまり、私たちが元の形に戻れば、本来の流れ、つまり未来にいる本来の自分たちを殺すことになる。私たちに上書きされてね」
「じゃ、じゃぁ」
 つまり僕も、ユキさんも、部長も、志茂居先輩も、湯木先輩も、相羽先輩も、芳田先生も、そして――
 ステラも偽者だというのか。
 そんなこと、納得できるわけがなかった。そんなこと、
「嘘だ!」
「事実だ、認めなさい。どうせ認めようが認めまいが、死ねばまた元に戻る。だから、今此処で死なせて上げます」
 白い軌跡だけがやけに、「向こう側」の黒に焼きついていた。

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