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今日の「三題」話

■連載中のlog
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 まるで、妹がやっていたゲームの様だ。有賀真衣が始めてそれを意識したときは、そう感じた。だがじっさい、その場に居ればゲームのような生易しい物ではなかった。
 期間は大体三ヶ月、二月頭から始まって四月末に終了。目的は、世界の巻き戻りを止めること。プレイヤーは自分のみ。そんな状況だった。幸いにして、国内有数の資産持ちだったことだけが有利といえば有利ではあるが、そんなことがどうでもよくなるのに、さして時間はかわらなかった。

 何度、やり直しただろうか。何度も、何度も自分は途中でゲームオーバーだった。回りつづける時間の最後まで生きていられない、という結果が待っていだけの。
 最初は、何が起こったのかわからなかった。成り行き上、ああ自分は死ぬのだなと悟った。始めはユキの拳だった。初撃を避けられず、そのまま内蔵破裂。真っ赤に咲いた視界が、次第に黒く染まっていく苦痛は確かに耐えがたいものだった。
 目がさめれば二月の頭、まだ肌寒い朝にもどっていたのだ。夢だと思った。
 しかしそれでも一ヶ月以上は暮らしていた、だから何か変だとは体が警告していた。真衣は結局記憶にある時間を何度も繰り返すことでそれに気がつく。
 ユキの拳は、何度繰り返しても同じ場所に同じタイミングで飛んできた。だから数回目――実に数十回は殺されているが――それでも避けられた。避けた直後、吹き上がるような蹴りに意識を刈り取られたのが何かまでは覚えていない。
 何度も戦闘を回避しようと奔走していた。もしかしたら自分が死ななければ、やり直す必要はなくなって、未来へと進めるんじゃないだろうか。
 だが現実は全く真衣一人の努力ではなにもできなかったのだ。
 最初は逃げつづけた。だがユキが現れては「博士の命令ですので」と一言呟いて真衣を殺す。数十回の後に、今度は隠れた。財力に物を言わせ、隠れた。だが結局まるで世界がそうあるようにユキはその場に現れて、そして殺される。
 実に数百回、命が燃え尽きる瞬間を体験して、最後に己で命を終わらせようとしたが、結局同じ時間へと帰ってくる。世界ごと変えてやろうとするものの、原因がわからないままではどうしようもなかった。
 本当にゲームのようだった。自分の動き、受け答え、全てが未来に通じていると実感したのは、何度も同じ時間を繰り返したからに他ならず、事実ただ扉をあけるときに右左の手の差で未来は驚くほどに様相を変えていく。
 だからとしても、その中に答えがあると考えてしまうのは、多分浅はかな考えだったのだろう。結局数千回にも及ぶ繰り返しの一度でもユキの手から逃れることは出来なかった。
 そして、そのときには既に己の体が若返っているという事実に気がついていた、だがそれが何なのかはまるでわかっていなかった。
 ――でも今ならわかる。
 時間はある一点で一瞬にして巻き戻る。まるでDVDの巻きもどしのように。だから誰も自覚は無い。人々は一瞬にしてゲームのセーブポイントから続きを始めるように時間を繰り返す。その中で、自分だけがなぜかプレイヤーとしてそれを知ってるのだ。
 賀古井と出会ってからは自分と賀古井だけが、プレイヤーだった。
 取り残されたような、まるでTVの向こうで映像だけが動いているような、そんな感覚になる。そして、ゲームの中の体は巻き戻りのあおりを受けて若返っている。多分途中で死んでも同じ時間を巻き戻ってるから若返っているのかと思った。だが、それでは開始の時に回りの人間が変に思わないのはおかしい。
 結局答えは、そうなのだから仕方ない。という諦めにもにた結果しかもたらさなかった。
 巻き戻るのは体だけで、心はそのまま時間が進む。つまり自分たちだけは押しもどされてる。本来は体も精神も進んだ分を無かったことにしている、その差なのは確か。
 そして、この体から色が抜けていくという、信じられない現象が起こっている。
 それに気がついてやっと、答えが出たのだ。
 もうすぐ賀古井も色が抜け、自分と同じになるだろう。そして最後には、消えてなくなる。何千回繰り返した時間のなかに、終わりが見えたときはまるで救いの神のようだった。だが、賀古井は納得していなかった。
 既に世界は自分たちを置いて未来へと進んでしまっている。大体そうでなければ自分たちの記憶だけが保存されているわけがない。自分たちはただ、取り残されたドーナッツの中でグルグルと回る残像でしかない。
 だから、終わるのならそれでいい。真衣の言葉に、賀古井は首を振った。
「私は、本来も偽者も興味は無い、ただ自分が生きたいという至極まっとうな感情で動いているだけだ。このまま世界を終わらせようとするのなら、私は有賀真衣、貴方を敵にする」
 その言葉と共に、既に幾千の時間を共にしていた賀古井との縁は切れた。
 世界がどうやったら終わるのか、その答えは実に簡単な結論で帰結する。
 そのままでいれば、存在するためのエネルギーを磨耗し消えるのだ。だが、その折に見つけた結果がもう一つあった。自分の存在しているエネルギーは減っていないのだ、そして賀古井も。さらに己が関わった世界は、間違いなくエネルギーを補充している。自分たちの存在は、消えかかった世界が自分を守ろうとして作り上げた存在なのかもしれない。
 そしてそれいがいに、関わらずにエネルギーのヘリが少ない人間が居る。自分たちの予備軍とでも言うべき存在は、間違いなく自分たちが完全に存在を逆戻しされきったあとにやってくる後釜だろう。
 そして、その存在が加賀ヒサキだった。最初に気がついたのは自分だったが、すぐに賀古井はそれに気がつき手をうったのだ。自分たちと同じ存在になれば、世界は力を取り戻す。だからといって、本来の時間の流れと同じ流れに乗ることは不可能だ。
 間違いなく世界の均衡は崩れ、先にある時間はやり直しを受ける。無かったことにされる。
 それはしてはいけない。自分たちは、間違えた存在なのだから。
「簡単だろう。知らないのだから居ないのと同じ、何をためらう必要があるのか。あと二人、計算上あと二人我々とおなじ存在が居れば世界は動き出す」
 それは、してはいけない。真衣は足に力を入れる。加賀ヒサキが死ねば、後はそこで転がる原初さえどうにかすれば終わる。彼には申し訳ないが、此処で終わってもらおう。足が、ヒサキの腹に突き刺さる。
 めり込む感覚はやけに鈍かった。
「!」
 驚きに開いた視界のなかで、加賀ヒサキが蹴りよりも前に後ろに吹き飛んでいるのがみえた。まるで首根っこをつかまれ後ろに放り投げられたように。
 そして、加賀ヒサキが居なくなったそこにいるのは。
「……賀古井」
「残念だが、世界は終わらせない。さぁ、もう繰り返す余裕はないぞ。既に、」
 一歩。賀古井が踏み出す足音が、やけに響く。
「時間は来た」
 一歩。向こう側の風は未だになれない。
「沢村ステラが咲く」
 背後で爆音が轟いた。
 赤い、赤い天をも貫く柱が立ち上る。








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