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今日の「三題」話

■連載中のlog
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 遠く、学校の辺りから赤い柱が突き立った。
 ヒサキは、それを見上げている。部長に吹き飛ばされたまま、地面に尻餅をついた。目の前には部長と有賀真衣が対峙していて……志茂居を背負った男はヒサキのすぐ近くで蹲っている。
「沢村……?」

 有賀真衣の言葉に、ヒサキは意識を引き戻されるような感覚を得た。現実味の無いまるでアニメか映画のような世界は、どこまでも嘘だらけのような、そんな気がする。
「加賀ヒサキは既に円環開始当初から、私と同じくに向こう側に近しい人間だった。同じく沢村ステラは、完全に向こう側に近しいくせに、それを隠しとおせていた。なぜかは、私にはわからんがその堰さえ崩せば簡単に此方に落ちてくる。有賀真衣、貴様が人と関わらず世界を終わらせようとしていた間、私は全てを進めていたのだよ。君の負けだ、諦めたまえ」
 円環? ヒサキの疑問に答える人間は居ない。世界がグルグル回ってるといわれても、中々実感は湧かない。実際そうであれば、確かに実感もないだろうなとヒサキは思う。
 戻る瞬間には記憶がなくなってるんだったら、知りようが無い。もしそれを知ってる人間が居るのなら、きっと地獄のような世界に違いない。
「馬鹿な……陽性の反応は出ていなかった! 貴方の部活にいた陽性反応を示す人間は、貴方と有賀ヒサキだけのはず」
「だからいっている。沢村ステラを世界に繋ぎ止める存在がいたんだよ。だから、彼女は陽性反応をしめさなかった」
「な……なら、どうやってそれを……」
「世界をどれだけ諦めているか、どれだけ執着しないでいられるか。どれほどに、世界からかけ離れているか、そう言う人間だけを私は集めていた」
 賀古井は笑う。右手には、赤く血に濡れたナイフがいやにてかてかとぬめっている。
「始めは身体にばかりかけ離れている人間を集めたから失敗したが」
 そういって、賀古井は相羽を見る。その視線は、まるで物を見るような冷めた目つきだった。
 しかしまて……ないかが変じゃないだろうか。そう、部活だ部活がある前から時間が巻き戻っているのか。部長が入る前から?
「加賀ヒサキが考えていることは大体わかる。では君は、なぜ私の体が小中学生並みの体なのにそれを受け入れられた?」
「え? あ……」
 確かに一瞬疑問にはおもった。ちっちゃいなと感じた記憶もある。だがそれを問題だとはかんじなかった。
「外れてるのだよ、理から。相羽カゴメ。君、本当に一年から帰宅部にいたか?」
「もちろ……あ、れ? あれれ? あれ?」
「それが答えだ。便利なもんだな世界は、勝手に矛盾解決をするように出来ている。私と関係した物は、少なからず影響がでる。実際帰宅部が学校のシステムに組み込まれていないのはそれが理由だ。芳田、志茂居ケイタ、相羽カゴメ、湯木カズ。君たちは、部活があると思っていただけだ。二年の生徒がみな帰宅部を知っているのは、一人一人帰宅部に入れて試していたからだよ。記憶はある、だが部活に所属しては居ない。そのけっか、帰宅部を知ってはいるが、部員ではない。君たちは唯一合格した三名といったところだ」
「何もかも……」
「そう、何もかも偽り。だが私にとっては真実だ」
 賀古井は笑う。
「行かなくていいのか?」
 それは、志茂居を背負ってきた男の声だった。
 ヒサキは動転している頭で見上げる。
「あの柱、沢村ステラってこらしいんだが?」
 ――ステラ。
「今更走っても間に合いはしない。好きに努力するといい。さて、有賀真衣。君も馬鹿じゃない、いいかげん諦めるんだ。既にそろったんだよ。さぁ行こう。私たちが本物になるために」
 もう、間に合わない……。その言葉だけがヒサキの頭のなかでまわる。時間? 円環? 部活がなかった? 理? 
 と、いきなり視界がぶれた。疑問が頭に到達することには、景色が尾を引いて走る。
「悪いが、志茂居くんとやらは諦めてくれ。その代わり、君を学校まで連れて行く」
 耳に当たるのは、痛いほどの風とそれを切り裂く音。自分が丸で荷物のように担がれているという事実に思い当たるまで、ヒサキはその音を聞いていた。
「あの、ナイフ」
 ナイフを突きこまれていたわき腹は、担がれているヒサキの格好では見えない。見えるのは逆側のわき腹と、地面ぐらいの物だ。
「大丈夫だ。気にしなくていい」
 そこでやっと、自分がユキを抱えていないことに思い至り、肩にいたリロも姿が見えないことに気がつく。
「リロ……」
 きっと、志茂居と一緒に居るのだろうと思うとそれでよかったのかもしれないと思う。ユキのことも仕方ない。そうおもう。
 だからこそ、だからステラだけでも。今までどれほど捨ててきただろうか。ヒサキは思う。ライナが冷たくなっていくのを呆然とただ眺め、志茂居先輩を助けることも出来なかった。自分の我侭でユキを殺し、その上ステラまでが変なことになっている。
「世界がどうなってるかは俺も知らんが、少なくてもあいつらが嘘を言うようなことはない。いまの世界が偽者かどうかなんて興味はない、だが賀古井のやり方も俺はきにくわない」
「え? でも部長は、世界を救うって……」
「あいつのやり方は、犠牲の上に立つハッピーエンドだからだよ」
「……」
 志茂居を殺したのは確かに部長だった。きっと、ユキと自分があそこに来ることも。自分が志茂居先輩に固執してユキを殺すことも。そして、今あそこでステラがああなってることも全部仕組まれたことだとしても。
「でも……部長は」
「また見捨てるか? 全部諦めて賀古井の思い通りになるか? それもいい。君が選ぶんだ加賀ヒサキ」
「え……」
 ライナを見捨て、志茂居を見捨て、いまユキも見捨てた。自分は何もできない被害者で、傍観者で、役立たずだ。それでも……。そう、それでもまだ間に合うなら。せめて。
「言うんだ。俺はユキの願いで此処に居る。何でもかなえる魔女としてだ。さぁ言え、何がして欲しい? 何でもかなえてやろう。彼女の願いは君の願いをかなえること。君の安全を守ること。さあ言え。空気を振るわせろ。思うだけでは、叶わないぞ」
 ユキは最後にこの男を呼んでくれた。彼女は最後まで自分を信じてくれた。いま、諦めることは出来ないと思う。ヒサキは腹に力をこめる。
 ――まだいける。
 流れる景色を映す視線を前に。赤い柱が見える。
「学校に……ステラに会わせてください」
 ヒサキの言葉に、見えないけれど男が笑った気がした。
「任せろ」




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