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今日の「三題」話

■連載中のlog
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 車から顔を出したときのあの息苦しさ。
 風が切り裂かれて悲鳴をあげている。とんでもない格好で担がれてるくせに、なぜかそれについて文句は出ない。
 ヒサキは、ただ男の肩に荷物のように担がれ学校へとむかっている。
 撫でるなんて生易しいほどに体を風に叩かれて、踏みしめる衝撃が規則的に腹にかかる。これからは、荷物を肩に担ぐのは止めよう。そうおもえるほどに苦しい体制。

 だけど、今はそれどころではない。一秒でも早く学校へ。それだけがヒサキに口を開かせないでいた。
 流れる風景は、なんだか作り物のように尾を引いて消えていく。
 その流れる風景のなか、見覚えのある風景が目に入ってくる。学校がちかいのだ、ヒサキは顔を上げた。
「沢村……」
 賀古井に助けられたとはいえ、有賀真衣にけりつけられた腹には鈍い痛みが残っている。ユキをずっと抱えていた両手は、殆ど言うことを効かないほどに疲弊しきっていた。
 それでもヒサキは体を起こし、男の肩から降りようともがく。もう、まっていられないのだ。ただたどり着くのを待つなんてできやしなかった。
 それが遅くなるような選択しだというのがわかっていても、体が言うことを効かない。
「お、おい」
 肩で暴れだしたヒサキを押さえつけるようにしながら、男が声を上げる。
「わかったから暴れるな」
「沢。村っ! ぐっ」
 いきなりの加速に、舌をかみそうになる。何がと思ったときには、意識が遠のきそうになっていた。急いでくれたのだと、多分からだが耐え切れるギリギリで男はヒサキを抱えていたのだと理解する。が、それは既に遅い。
「ひっは」
 今度は急制動。変な声と一緒に、体の中身が出そうになる。
 一瞬にして耳に届いていた風の悲鳴は届かなくなり、静寂に逆に耳が痛くなる。ゆっくりと降ろされる感覚に、なんだか恥ずかしさを感じながら、ヒサキは久しぶりに地面を踏んだ。
「はっ……はっ……さわ、むら」
 赤い柱が見える。校舎の裏側、部室練のある場所だ。何でそこに……そこはさっきまで自分たちが居た場所だ、ステラは居なかった。
『だからいっている。沢村ステラを世界に繋ぎ止める存在がいたんだよ』
 それが自分だなんて、飛躍した考えは言わない。でもきっと部長がの思惑通り、ステラをつなぎとめていた存在は、あの場所で壊されたのだ。
 ステラがいっていた、幽霊だろうか。でも自分は幽霊は見えないし、部長にも見えないだろう。そんな物を壊す方法があるのか。
 けれど、それもどうでもいいこと。ヒサキは一度大きく息を吸うと走り出した。
「沢村……」
 正門から見えるのは、コの字型の校舎。のっぺり闇に溶けかかっている校舎はヒサキを向かえる、無言で佇んでいる。その後ろで大きな赤い赤い柱が突き立っていた。
 自分の息が上がるのを自覚するたびに、赤い柱は角度を変え少しずつ少しずつその姿をあらわし始めている。
 もう少し、後少しで。ヒサキの足は次第に加速していった。
 そしてヒサキは気がついた。「向こう側」が広がっている。
 やけに冷え切った頭は、その事実を伝えている。自分たちが走って逃げたのは原初が近付いてきていたからで、そのさい「向こう側」の範囲はそこまで大きくは無かった。
 しかし、担がれて此処にたどり着くまで一度も元の側に出ることは無くずっと「向こう側」にいたままだ。
 広がったにしては余りに急激すぎやしないだろうか。原書はいまだ半分を人間としているため、気絶しているはず、それで広がるとは……
「賀古井も、有賀もそして、あの沢村ステラって子もみんな原初といっしょなんだって、いってなかったか?」
 かけられた声にヒサキは振り返る。
 そういえば賀古井が四人がどうとか……。足を止めたヒサキのかたを、男は軽く叩き先を促す。
「賀古井や有賀はあの原初とは別の何かになってしまったみたいだけど、多分あそこにいるはずの沢村ステラは原初にちかいんじゃないかな?」
 つまり、二つの向こう側が今繋がっているから大きく感じたのか。
 それなら納得はいくが、変わりに信じたくない事実が突きつけられる。
 ステラが「向こう側」にいってしまったら、一体どうしたらいいのだろうか。
「大体、向こう側つーのは、変な言い方だよな。あれはさ」
「知ってるんですか? 白い人も向こう側のことも」
 ヒサキの言葉にふんと、肩をすくめて男が笑う。
「向こう側といってるのは、この世界が通ってきた過去だ。時間が円環つまりはドーナッツやタイヤのようにグルグルまわってるんだ。本とは紐みたいなものでさ、バネのように螺旋を描いてたんだそうだ」
「じゃぁ、重なってる部分が」
「そう、重なってる。いや正確にいえば、削り取られ過去は消えていく。あの白い人たちは、いま重なってる俺たちの過去。向こう側から言わせて貰えば、俺たちのほうが白い人だ」
「で、でも。特に人のようには……」
「怪物にであったら、叫ぶだろ。逃げるだろ。立ちすくんで動けないかもしれない」
 そういえば、初めてみた白い人たちは殆ど動かなかった。叫んだりすることはあっても……。
「重なっているのは物理的なものじゃないかもしれないけどね、とりあえずは間違いなく俺たちの過去はあそこにある。そして、向こう側というのは過去と今の狭間」
「じゃ、じゃぁ今まで殺してきた、白い人たちは……」
「人間だ」
 いきなり体中が冷えた。時間が止まったようなショック。ヒサキの足は止まり、そして動けないままでいる。思考は身じろぎすらせず、そして――
「しっかりしろっ」
 殴られた。
 ヒサキの体は面白いように地面に倒れこんだ。体は受身を取ることすら出来ず、ただどさりと地面に転がる。
「う……」
「芳田とか、有賀はそれを止めたくて色々やってたみたいだけどな。もうそんなことどうでもいいだろ。どうせ過去は薄れて消える。この世界にいる人間の中で、いつ消えてもおかしくない存在の希薄な人間つまり、向こう側に近付いてしまった人間といっしょだ。次第に薄れなくなるんだ。気に病む前にすることがあるだろ? さあ、何のために此処に着たんだ」
 そうだった。この手が人を殺した事実は今更なにもかわらないのだ。ヒサキは言い聞かせるようにして体を起こす。そうだ、今は。
「沢村……」
 走り出した。校舎の角が見える。切れた向こう、大きな赤い柱が突き立つのが見えた。
「沢村ぁぁぁ!」
 赤い柱はどうみても、血液のそれにしか見えない。透明度が殆ど無いくせに、やけに艶があってそして鉄の匂いがする。もう成れたこの匂いに、ヒサキの足は全くひるまない。
 けれど、近付くにつれヒサキの足は確実に遅くなっていった。
 「沢村っ!」
 赤い血の柱の中に見え隠れしているのは、裸のステラだった。だが、何か変だ。血の流れのなかに、見える手、足。顔。胸。何かが変だ。
 「何だよこれ! おい!」
 なんだか、人間の大きさじゃない。両手両足が伸びているような……いや、コレじゃまるで、
 バラバラじゃないか。




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