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今日の「三題」話

■連載中のlog
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 世界は、バネのような螺旋を描いていた。それは概念的なもので、特に直接時間という座標を移動していたというものではない。
 ただ、「例えるのならば」螺旋を描き未来へと進んでいた。
 その螺旋から、上の螺旋へと飛び移った「何か」は今では観測すら不可能で、いまさらそれが何であるか、何であったかを調べる術はない。
 ただ、結果だけは確かに残りそこに「何か」が在ったことは確かである。
 螺旋を描く形は、世界が未来へと進行する上でこの上なく都合の良い形であった。直進する世界は、すぐに世界の寿命をなくし、蛇行するような世界では、酷く安定しない世界が出来上る。そのなかで唯一螺旋は緩やかで、それでいて安定している完璧とも言える形であった。

 だが、それゆえに脆かったのだ。余りにも近くに己を置く形ゆえ、世界はその「何か」の本の少しの影響で破壊されたのだ。
 一部分が接合したまま世界は、ある時間から取り残された。偶然、難を免れた一部はそのまま未来へと螺旋運動を続け、取り残された世界は、同じ時間を繰り返す円運動を開始した。
 取り残された時間は、己の過去を削りながら未来へ進む。その先にあるのは確実な磨耗であったのだ。
 そのままでは過去を削りきれず、世界は崩壊するところだったのだ。
 だから、芯が必要だった。それはまるで植物の根の先にある硬い細胞のようなものだ。
 世界は自己防衛本能により、まるで生物のように己の世界を書き換えていく。それが世界の芯となり世界を支え、維持するための存在だった。
 有賀真衣、賀古井ミイはその被害者であり、選ばれた世界を守るものでもあった。
 世界の芯として彼らは、存在を引き伸ばされ世界の芯として使われた。
 既に彼らは、時間を生きていないのだ。世界を貫く存在である彼らは、過去でもあり未来でもあり、そして貫く記憶を維持しつづけている標。
 例え円環の途中で彼らが死んだとしても、彼らは死せず存在は残りまたリセットされる運命にある。
 しかし、世界自体が不死ではなかった。己を削り取りなら突き進むうち、過去を上書きすることに限界が出てきたのだ。既に疲弊しきった世界は、芯によって逃げられないまままるで自殺するように己を削りつづけたのだ。
 そうやって己を削りつづけている世界のなか、立った二人の標は自分たちが、そして世界が生き残れる方法を探しつづけていた。
 結論は、貫き通す芯がもう少し多ければ、世界は上を向けるという物だった。世界は、先に進めるようになる。二人では上を向いても世界の重さに耐えられないのだ。だが、四人になればそれは可能な域へと達することができたはずだった。
 だがそれは、同時に芯になる人間が二人増えることになる。そして円環をなさない時間は永遠に上へと向かいはじめるが、けっか、合計四人の人間は時間から取り残され消え去る運命にある。さらに、この円環の上には既に先に進んだ世界があった。
 四人の人間は人柱となり、更に先をすすんだ世界を殺しながら人々はつかの間の時間を得る。その結論に至ったとき、芯であった二人は意見を違えた。
 一人は、エゴだろうが生きている人間は大いに越したことはないと。自分たちが真実だと疑わず。
 もうひとりは、殺した上で成り立つ世界はいらないと。自分たちは偽者なのだと諦めた。
 二人は、互いに気の遠くなる時間を存在させられていた。同じ時間を回る世界は、既に他人が人間に見えなくなるほどだっただろう事は、想像に容易である。
 それでも二人は、世界を思い助けようとしていた。バラバラの意志であろうとも、その気の遠くなる時間を二人は孤独と共に戦っていたのだ。
 その時間、実に六百九十二万五千二百四十八時間。実に二十八万八千五百五十二日。
 約、八百年。

 賀古井の小さな体は、そのまま地面になんとも軽い音を立てて伏した。
 既に意識はないのか、視線は空を見上げ胸を浅く何度も上下させていた。
 ヒサキは、それをすぐ側で見下ろしている。
 始めは勢いよく、それこそ噴水のように流れ出てた血液は、今ではまるで水栓の閉め忘れた蛇口のようだった。
 かろうじて、ヒサキが平静を保ってそれを見ていられたのは、ステラが側にいるような気がしたからに他ならない。
 溶けかかるステラを、必死で口に運んだおぞましい記憶は、トラウマになったにちがいない。思い出しても吐き気がこみ上げる。でも、それがステラの最後の望みだったのだ、そう信じるほかなかった。
 もう、トマトも、肉も食べられそうにない。ヒサキは自嘲気味に部長を見下ろしながら笑った。
『ゴメンネ』
 ステラが傍にいるような幻覚どころか、幻聴まで聞こえる。頭もおかしくなったらしい。又どうせ世界がやり直しになるのなら、それでもかまわない、ヒサキは思う。
『幻覚じゃないよ』
 なんてリアリティのある幻聴だろうか、ステラがちょっと拗ねたような声――。
 拗ねている? そんなステラなんか見たことがない。ヒサキは思い当たった記憶に、やはり己はおかしくなったのだと結論付けた。
 立ち上がる体が、嫌に重たかった。
『感情は、ヒサキに貰った。もう、幽霊達を見なくてもよくなったから』
 そうかそうか、それはよかった。
 ヒサキは、殆ど自暴自棄に脳内ドラマに返事をした。自分が狂ったかどうかなんて今はどうでもいい、志茂居先輩を、ユキさんを置いてきてしまったのだ。目の前に横たわる部長の体を、無意識に担ぎ上げヒサキは学校を出ようと歩き出す。
「おい! 後輩。どこに行くんだ」
「え? いや……相羽先輩とか、おいてきちゃいましたし」
 一瞬、言葉を選んだ自分が嫌だった。一度頭をふって、歩き出す。賀古井の体は軽く、なんだか不思議な感じだった。
『行こうヒサキ、あの女の子をまだ助けられるかもしれない』
 そう、諦めない。
 助けられるなら手を伸ばそう。
 だめもとも、不可能も、無理も、何もかも。そう、もう何もかも関係ないのだ。
 頭の中で、ステラが頷いた気がした。
 それにしても、なんだか感情豊かなステラというのは変な感じがする。いくら想像の中とはいえ、知らないことを想像するなんて自分はなんて器用なのだとヒサキは考える。
『ヒサキが取り込んだのに……』
「僕が?」
 既に足は学校をぬけ、相羽先輩がいるほうへ向かっていた。後ろを振り向くが、湯木とムトウは少し離れたところを走っている。声は聞こえていないだろう。独り言を聞かれるというのは、少々居心地が悪い。
『食べたでしょ、私のこと』
 確かに。それと頭の中で笑うステラの感情につられてなんだか、アレだけ落ちていた気分は無理やり引っ張られている気がする。
 けれどやはり自分の想像では、そんな気がしてならなかった。
『じゃぁ、ヒサキが知らない質問を私が答えられたら信じる?』
 なるほど、確かにそれなら信じられる。
『何が聞きたい?』
「そうだな……僕のことどう思ってた?」
 同時、頭の中が沸騰した。いや、性格には頭の中にいるステラの頭が沸騰したような感覚。本当に、自分の存在以外にステラの存在がいるような、そんな気がしてくる。
『感情って、じゃま』
「そうかな」
 でも、そうかもしれない。ステラはいつも迷いがなかった。確かに邪魔なのかも。
「でも」
『でも?」
「僕は君が好きだったと思う」
 その感情はきっと邪魔じゃない。





 おひさしぶりです、といったところでしょうか。

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