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今日の「三題」話

■連載中のlog
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 ステラがいうには、自分は既に三月の時点で賀古井に勧誘をされていたのだという。それも直接的に、世界ために自分と共に死んでくれ、と。
 その頃のステラは、殆ど己の行動に記憶がない。人を捨てた日から、時間は流れる物でも感じる物でもそして、待つものでもなかったから。
 ステラは、ワンという幽霊と相談し、死んだら幽霊になれるかもしれないし、特にやりたいこともない今、世界のために死ぬのも悪くないと結論付けていた。
 多くは、死んで幽霊になれるのならという結果があったから承諾した事実である。

 だが、賀古井の言う人柱は、世界のために死ぬ、言わば土台になるということだ。
 結局そのことを知らされず、そして勘違いしたままステラは今にいたった。賀古井に呼び出されるがまま学校に赴き、そこでヒサキを見たのだ。
『だから、邪魔』
 確かに感情がなければ、こんなことには成りえなかったのだろう。賀古井の言動からして、ステラにかすかに残った感情を揺り動かすために自分が呼ばれたのは間違いない、ヒサキは考える。
 そして、思惑通りにヒサキはステラの感情を揺り動かし、結果として殺すことになった。
『信じてくれた?』
 言葉になる感情は、殆ど稀のようだった。ステラだと思われる脳の片隅の存在は、まるでお構い無しといった具合に感情を投げかけてくる。
 それは具体的に言葉にならない感情が大半で、口には出せないが言いたいことは大体わかるといった、いかにもアヤフヤなものだった。
 初めて手に入れた物の使い方がわからず、もてあましている感じがする。
 彼女が言いたい、信じて欲しいことというのは間違いなく、自分の言葉はステラ本人で、それは加賀ヒサキがステラの血肉を啜ったことによるものだ、ということ。
 世界から完全に切り離された瞬間、ステラは赤い柱に包まれた。それはヒサキのこともあったが、どれほどまってもこない相羽カゴメのこともあった。賀古井の策は、余りにも用意周到だったのだと、今更ながらに気がつかされた。
 切り離された体は、赤い柱の中で存在と物質の境目がアヤフヤになり、崩れ落ちた。
 ただ、中央に確かにステラとしての何かはしっかりと在ったのだという。
 夢を見ているように体がバラバラになり、そしてヒサキに引きずり出された。
 そのとき、伸ばされた手はステラをすくった。だが、崩れた体が治ることはありえず、肉体は本来物質としてありえない存在と混じり溶け、崩れ落ちていく。
 存在は、寄る場所がなければ霧散するのだ。消えかけ始め、肌身でそれを感じたステラはヒサキを拠り所にすることを決心し、そして結果がこうなった。
 というのが、ヒサキの脳内ドラマの結果である。
『違う』
 頑なに真実だといってはばからない意志に反する意思は、もどかしさと焦りと、悲しみと、そして怒りをまとめてヒサキにぶつけてくる。
 こんな、感情の起伏は自分でも久しぶりな気がする。ヒサキは自嘲気味に笑いながら、あがっている息を意識する。
 頭の中から、現実を見直すように。
 それでもやはり、ステラがそばにいるそんな気がしていた。

 赤い柱が大きくなるにつれ、あの血と肉の匂いが鼻に届く。それは間違いなくあの、小さな少女のそれであろうことは明白だったし、ヒサキはそれからめをそむけようとはしなかった。
 もう、夜が明ける。世界はまた始めに戻るだろう。今此処で諦めても、同じ結果が待ってることはわかってる。
 でも。だからこそ、諦められない。
 次の自分は、最後まで頑張るのだろうか。
『今頑張れば、きっと次こそは』
 そうだ。先延ばしなんて事は出来ないのだ。次があるからこそ、今諦めるわけには行かない。
 無駄だ、そんなことはわかっていた。今更少女が五体満足ですくえるとは思えない。万が一すくえたところで、どうにかなるなんて事は無いだろう。
 どうせ日が昇ることには時間は巻き戻る。
 それが本当のことなのかどうか、真偽を確かめる必要はないだろう。日が昇ってしまったら何もかも忘れるか、普通に時間が進むか。今此処で賭け事をするつもりは、ヒサキには毛頭なかった。
 だから、例え次があってもなくても、自分が胸を張れるように。
 そう、下を向きいつも後悔してきた自分が、また胸を張って生きていくために。
 赤い柱が目の前にある。
 たった一秒だって。
 幼い女の子は、ステラと同じく赤い柱の中で浮いていた。
 諦めたりしない。
 手を伸ばす。背中から、カゴメ先輩の声が聞こえた。でも、意味がわからなかった。
『ヒサキ、後ろ』
 ステラの声が、頭の中で響く。手を引き、振り返った瞬間。世界は尾を引いて流れた。
 同時、感じたのはわき腹から頭上へ抜ける衝撃。
 世界がひっくりかえったときには地面に頬をすり、勢いで肩を打ち、最後には体がもう一度跳ね上がり背中をしこたま壁に打ちつけた。
 歪んだ視界の向こう、有賀真衣が立っている。背には赤い柱が聳え立ち、カゴメ先輩は蹲っていた。
 何故、その疑問が一瞬でヒサキの頭を埋めていく。有賀真衣は、この行為をとめようとしていた張本人だったはずなのに。
 でも、もうその疑問の答えを待っている時間はなかった。
 空が青みがかっているのだ。夜明けが近い。既に痛いのか、無いのか、わけがわからなくなっている体を無視して、起き上がる。頬の皮が面白いように擦り剥けていて、かすかな風に痛みを覚えた。
 いつもなら、もう動くのすら止めて諦めていた。血はながれ、地面に打ちつけた肩は動かず、わき腹の痛みにまっすぐ立つことは出来ない。膝は、長距離を走ったおかげで笑いだし、呼吸は無意識上に不規則だった。
 でも、ヒサキは前に出る。それは必死の全速。
「賀古井が死んだ、もう一度やり直せば世界は全て終わる。それでいいの。加賀ヒサキ、もう止めましょう。もうすぐ日が昇る」
「……」
 答えない。ヒサキは、口を引き締め、前に進む。
『なにか変』
 わかっている。だけど、考えるのは自分の仕事じゃない気がする。ヒサキは、手を伸ばしそして、有賀真衣に掴まれる。
「もう、十分なの。もういい。どうせ、次になれば彼女は病院で寝ている普通の女の子にもどる」
「今諦めたら、次も……諦めそうだから。だから」
『何か隠している』
「諦めない、。僕がダメでも。ムトウさん、お願いだ。お願いだから――」
 返事はすぐ背後から来るはずだ。いや、既に来ているとわかっている。だって、ユキが後を任せた人なのだから。
「まかせろ」
 声と同時、まるで容赦のない風が頭のすぐ横を凪ぐ。
 同時、掴んでいた手が外れ有賀真衣は吹き飛んでいた。
 確認するまでもなく。そして、前に。
『そうか……ヒサキ、きっと皆助かるよ』
 あと一秒だって諦めない。足は進むためにあるんだから。





 夏休み明けの会社ってのは、ほんと殺人的に死にたくなりますよね。
 あー、口の臭い上司だけでも異動しねぇかな。ほんと。

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