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今日の「三題」話

■連載中のlog
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 実のところ、といったところでそれが普通だから、むしろやっぱりといった表現の方が正しい。
 ヒサキは、これっぽっちだって信じていなかった。
 世界はいつもどおりに次の日が訪れるだろうし、頭の中にいるというステラのことも信じていなかった。そんな、いきなり世界が回ってるなんて言われたところで、普通にしんじられるわけがない。実際ユキが、その内部構造を外に晒すまでロボットだと信じていなかった。
 彼は、最初から何もかも信じていなかった。だからといって、現実や自分の考えを信じていたわけではない。
 むしろ、加賀ヒサキという人物は、何もかもどうでもいいし、どうなろうと興味はないのだ。

 自分が信じていたことなんて、吹けば飛ぶような程度の物でしかない。
 そして、人が言うことなんて、やっぱり同じ用に確信はない。
 例え、それが死ぬ間際の必死の訴えであっても、彼は興味を本当の意味でもつことはない。
 そのはずだった。
 今も、ライナの墓参りは彼女の家族から許されていない。葬式にいったら、彼女の両親に泣きながらこないでくれといわれた。
 ああ、やはりライナを殺したのは自分で。彼女の意志を実行した自分は、どうしたってしてはいけないことをする結果になったのだ。
 しようとしたことは断られ。それにしたがった結果は、永遠の断絶という物だ。恨みは深く、思いは届かず、余りに絶望的な現実はまるで雲を突くような壁として彼の前に立ちはだかった。
 ああ、もう……何もかも面倒くさい。
 そして、どうでもよくなった。表面上、人と共に暮らすために彼は取り繕ってきた。でも、やはりどこかで何もかも疑っていたのだ。
 だから、人の希望なんて言うものは何を信じていいのか、何が正解なのかわからない彼には、届かない。
 気が狂って作り出したであろうステラの幻想は、世界を救うことを望んでいた。
 その思いは、言葉ではなく思いその物として直接ヒサキの頭を揺さぶっている。
 久しぶりの感情だったのかもしれない。自分に感情がないとは思わないし、かといって豊かだといえばそうでもないと思っていた。けどどこかしらで抑圧していた部分があったのだろう、それがこうしてステラの幻想として頭の奥で叫んでいるのだ。
 それすらも、信じることは出来ないのだけど。
 何も寄る場所がない、加賀ヒサキという存在はそれこそ不安定その物のはずだった。
 賀古井の予想では、加賀ヒサキは外面を取り繕いつづけた結果、その作り出した外面そのものに彼は依存しているという物だった。
 つまり、芯の通ったという表現ではなく、外骨格のようなそれだ。崩れれば一瞬で、彼は存在を世界に置き去りにされ、そして柱へとたどり着くはずだった。
 結局それはなされなかった。
 外骨格は余りにも強靭で、壊れるどころか傷がつけばそれを補ってしまう。最後には、前を向く力すらもっているのだ。つまりは、理想的行動。よる所が想像や、希望の先にある理想その物だった。こうあるべきだ、という言葉を愚に守りつづけて世間体を保ちつづけた彼は、そのまま人として最も理想的な行動を取ることを選択する。そこに己の命は顧みる結果はなく、勇気は一欠けらすら必要なく、ただこうすればきっと、あっているのではないだろうか。その延長でしかない。
 そして、彼はその理想的な行動だけを信じ、前にでる。
 時間が巻き戻らなければ、どれほど滑稽なことだろうか。このまま何もせず、夜明けがくれば目の前にいる、有賀真衣と呼ばれた女性の狂言が暴かれる結果になるに違いない。
 そして、時間が巻き戻るわけはない。
 だって。時間が巻き戻るなら、
 ――どうして、ライナは死んだ。
 時間が巻き戻らない言い訳を作れば良い。そうすれば、有賀真衣の狂言も踏まえた上で世界は夜明けを迎えることができるだろう。
 頭の中にいるステラも、それを望んでいる。それが本当に、存在という一個人なのかどうかなんて既にどうでもいいことだ。
 賀古井部長が己の首を切って死んだ意味が、少なくても在ったのだとそう信じることも出来る。
 志茂居先輩が、殺された意味もきっとある。
 相羽先輩や、湯木先輩が望む結果があるかもしれない。
 ユキさんが、自分を守ってくれた意味がある。
 そして、ライナが生き返らないという結果に納得ができる。
 漠然とした思いだったのだろうが、ヒサキにとってはそれで十分だった。具体的にどうしたいと思ったことのない人間が、武器を握り締める理由なんてそれでよかったのだ。

 ただ、コレでなんとなく正解だとおもったのだから。
 
 突き出した、カッターナイフは有賀真衣の中心めがけて風を切る。
 けれど、その刃は彼女の胸に届く前に叩き折られ地面に落ちた。結局カッターの柄だけが、彼女に届く。軽い音と共に。
「こんなことをして、早く死んでどうするき? 何度もいう、この世界は偽者なの」
「でも……」
「でも?」
「もう、諦めない」
 隠し持っていたのは、カッターの刃だ。勝ち目がないほどの差というのは、その差ゆえに勝敗は五分五分になる。刃先さえとおれば、拳一つ届けば、それだけでねずみは猫をかみ殺す。
 驚愕に、身を捻ったときには既に遅かった。赤い弧えがき、首からのびる血の線が夜明け前の薄明るい空に飛ぶ。
「!!」
「やり直したって、もう僕はいない。やり直したといっている貴方だけの真実は、僕にはいらないんだ」
 まるでためらいのない狂刃は、今度は心臓にめがけてつきこまれていた。
「がっ……」
 吐き出す息すら激痛を伴うのか、真っ青な顔をした有賀真衣はその場に崩れ落ちる。
「ヒサキ……」
 ムトウの声は、驚きと悲しみに染まっている。知り合いなのだっけ、今更ながらに思い出した。
「はっ……かっ……どうした、止め、を……刺さない、のか。もう、日が、昇る……ぞ」
 振り上げようとした手には、もう感情は乗っていない。
 人を刺し殺すことに、なんら心は必要なかったらしい。
 不可抗力でも、結果でもなく、過程を続ける殺人も酷く面倒なだけの作業なのだと、ヒサキは目の前の女性を見下ろしながら思う。
 だけれども、その最後の一振りを落とすことはヒサキにはできなかった。
『……』
 ステラも言葉を失い、静かにまるで見守るように息を潜めている。
 振り上げた手に力がはいらなかった。
 どうでもいいはずなのに、どうして。
 ああ、もうすぐ日が登る。





 とりあえず、最終回脱稿しました。脱肛はしてません。
 ぴたり100回か?
 しかも金曜日か。区切りがいいですな。

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