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不定期連載小説:

某匿名掲示板、ラノベスレに提出する作品です。

あの空の向こう 03:閉じられた扉の向こう(ツキノツバサ | 小説のログ。)
 というわけで、三話目更新です。
 寒いですねぇ。そろそろストーブだそうかなぁ。コタツもいいですな。

連載小説「保健室のロボット先生」

LOG 


 生きることに、必死になる必要が無くなった。
 それが生物として、危険だと気がついたのは、既に手遅れになってからだった。
 仕方の無いこと、なのかもしれない。
 生き抜くために作られた人間の精神は、生き抜く必要がなくなった瞬間壊れていたんだから。
 けれど、それなりに世界は動いている。
 それなりだから、色々な問題がでてくるのは仕方が無い。社会問題にまで発展したところで、行き着くところは対処し様の無い事ばかりだった。だから、できる所は、必死で対処しようとしてきた。
 けれど、そんなお偉いさん達の苦労なんて、実際は見て取れることなんて、一つだってなかった。結局のところ世界はなにも変わっていない。変わったことといったら――
 ロボットの養護教諭が来たことぐらいだ。

 養護教諭。保健室に常駐して、学生や教職員の怪我や病気の応急処置を行い、必要に応じて病院等への搬送を行う仕事をする人。だが世界が、社会が、それだけでは許さなかった。
 つまるところ、カウンセリングが占める仕事の量が増えてきた。カウンセリングの資格をもつ教諭が求められ、そしてその数は次第に供給を超え始めた。
 しかも、激務により教諭自身が精神をやみ退職することも、少なくはなく、気がつけば需要と供給のバランスは、砂漠の中にある水が如しだった。
 ないなら、作れば良い。
 ただその一言で、ロボットが作られた。未来の希望であるところの子供達を守るため、そうしてロボットが学校の養護教諭として配属されることになったのだ。
 なんて話が、昔からあった。

 見た目は、殆ど人間と変わらない。機械と人との垣根を取り除くために尽力された姿は、遠めに見たところで区別はつかないだろう。
 でも、いかんせん学校にやってきた養護教諭は型が古かった。摩擦劣化を防ぐために儲けられた、肌にある切れ込み。つまるところ、関節や目の下から顎にかけて走る線は、隠しても隠し切れないほど、人間ではなかった。
 TiO2:K78MAHI5・TYPE―YuKi。女性型養護教諭専属ロボット。看護師専属タイプの機体を流用しているため、うってつけといえばうってつけである。
 TiO2というシリアルナンバーが、二酸化チタンの組成式と同じため、ルチル(二酸化チタンの正方晶系の結晶)と名づけられた彼女は、自分の顔を手鏡に映して嘆息。
 目から顔を分断するように走る、メンテナンスエッジをなぞっていた。
 まるで涙の痕のようにすら見える。
「失礼します」
 保健室の扉を、控えめに叩く音。ルチルは、持っていた手鏡を置くと、椅子を回転させて振り向いた。
「ハイ、どうぞ」
 言葉の後に続いたのは、扉の蝶番が軋む音だった。
 少し開いた隙間から、気の弱そうな顔が覗いた。お馴染みの顔に、ルチルは笑顔を向ける。
「大丈夫、だれもいないよ、麻ちゃん」
 保健室登校というと、聞こえが悪いが登校してくれるだけましといえば、まし。少なくても、ここに来てくれればルチルは、話すことができる。もし、学校にこなければ後は担任の教員が家に行くことになり、ルチルは只見ているだけになってしまう。
 ルチルの言葉に、麻と呼ばれた女生徒は部屋に入ってくる。
「そうだ、麻ちゃん。今日水質調査があるから後で手伝ってくれないかな」
 いつものように、荷物を置いてベットに腰掛けた麻が顔を上げる。ルチルの言葉に麻はゆっくりと頷いた。
「じゃぁ、先生はちょっと雑用終わらせちゃうね」
 そういって、ルチルは机に向きなおす。古臭い椅子が、鉄錆びの軋みを上げて小さく鳴いた。
 養護教諭の地位を与えられたロボットは、教師という立場を取ることができる。それは、必要さえあれば人間相手に命令を出すことが可能、ということである。それは、人間ではない彼等ロボットとして神が如し地位なのだ。しかし、作られたときからそのために作られているため、彼等にその差を妬んだり不満に考えることは根本的に、かけている。
 だが、ルチルは違った。既に、養護教諭専用であるロボットの数すら足りないのだ。廃棄寸前のロボットに、無理やりデバイスを増設し仕立て上げられた継ぎ接ぎ。
 だからルチルのような、いわば成り上がりにも似た境遇のロボットには、風当たりが強い。ルチルとしては、いつ首になってもかまわないと考えているのだけれど、周りがそれを汲んでくれることは無い。
 つまり報告書の作成や、結果を出すことを求められるのも、致し方ないことなのだ。
「ねぇ、先生」
 麻が呟く声にルチルは振り向かないでどうしたの、と答える。
「先生なにかいってきてない?」
 一瞬何を言ってるのか判らなくなる、がすぐに麻の担任のことだと思い当たった。ルチルは持っていたペンをゆっくりと置くと、立ち上がる。
「なにも伺ってないわ。なにか気になることでもあるの?」
 いいながら、ルチルはティーポットを手に取った。部屋の片隅にある流しには、紅茶やコーヒーなどが入れられるようにいろいろな物が並んでいる。
 その中から、ティーパックを一つ取り出すとポットの中に沈める。すぐにポットからは、紅茶の良いにおいが立ち上り始めた。
「……何にも無い」
「そう、でも気になるならいってね。先生も心配してらっしゃるから」
「うん」
 麻の小さな返事に、ルチルは軽く頷いた。
 嘘だ、そうルチルは思う。彼女の担任の教師は、何も言ってきていない。まるで、麻という生徒が自分の生徒ではないといったぐらいにだ。とくにルチルから、保健室登校をしているということを担任には伝えていない。教室で授業を受けないのなら、欠席扱いになってしまうので特に養護教諭からの連絡は必要が無い。それに、担任の教師に知られることを嫌がる生徒も居る。だから、ルチルからはなにもしていなかった。だが、いつまでたっても彼女の担任がルチルに何かを聞いてくることはなかった。
 まるで麻が居ないかのような――
「はい、どうぞ。熱いから気をつけてね」
 表情には出さず、ルチルは紅茶の入ったカップを麻に手渡した。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
 麻が保健室に通い始めてから、すでに一ヶ月。そろそろ、確認ぐらいはしておいた方がいいかもしれない。
 始業のチャイムが鳴る。
 鐘が響くたび、響いていた生徒達の喧騒がだんだんと小さくなっていく。
 静かな時間が始まる。いつもどおりの、静かな時間。
 ルチルは、カップを両手で抱える麻を見下ろして、彼女を思う。一体自分に何ができるのだろうか。型の古い電子脳が、電圧に疼く。



 らい兄貴に、ロボット物と養護教諭物どっちがいいと伺ったところ、ロボット養護教諭物!? という返事が返ってきたので、急遽でっち上げてみました。
 こまい話をぽつぽつと、やっていこうとおもいます。

■保健室のこと:
 保険医っていうのは、保険証で診療できる医師のことをいうらしく、保健室の先生のことではないそうです。
 保健室の先生は、養護教諭というらしいです。それと学校医(校医)という学校職員がおかれていますが、これは教員ではなくて医師で、保健室に常駐はしていない非常勤職員のことらしいです。身体測定のときとかに来るお医者さんのことっすね。

■ロボットという表現:
 本来、見た目からいってもヒューマノイド、もしくはガイノイドと表記すべきルチルですが、表記の正確性よりも言の印象のほうを取りました。もちろん、印象は個人個人違う物ですから、一様にこれでよしとは私も思っていません。
 できれば、ロボットと言いたいけど、アンドロイドっぽい。そうおもって、調べてみたら、アンドロイドっていうのは男性型の総称でガイノイドというのが女性型だそうです。
 「人によって製造された、人間を模した機械のこと」もしくは「人型のロボット」のことをさしたいのであれば正確をきすならば、ヒューマノイドか、ガイノイドという表記にすべきです。ですが、印象からいえばアンドロイドという呼称のほうが、しっくり来るわけです。でも、アンドロイドは正式ではないし、正式ではないのならロボットといってもいいだろう。
 ということで、この作品ではあえて人型ロボットを省略して、ロボットと表記しています。
 PCをあまり知らないひとに、サイトというよりホームページといった方が伝わりやすいというような、選択に似ていると思います。
 正確さも大事ですが、それよりもまず誰にでも判る、もしくは判るであろうことも大事だと思い、こう言う形をとっております。ご了承ください。

某匿名掲示板用提出作品

連載小説:01話(ツキノツバサ | 小説のログ。)
 久しぶりに、連載とか。
 話的には、SF。サイエンスフィクションじゃなくて、さいえんすふぁんたじー。
 ひらがな的グダグダなのりで。
 挿絵をまたもやMyu氏にもらったので、それもいっしょに。フヒヒヒ。

 

連載小説:047

047:log
 静けさが戻ってから、ふと小崎・朝弓は周りを見渡した。先ほどまで鳴り響いていたけたたましい警報が解除されたからか、いやに静寂が耳に痛いのを自覚する。
 硬く寝心地の悪いベッドに寝かされ、腹部の痛みと痛みをまったく和らげずに体の自由だけを奪う賞味期限切れの麻酔が彼女の自由を奪っていた。
 円柱状に広がった無駄に広い部屋は、どこかたともなくライトアップされていて二階ぐらいの高さにまるで、自分がいる場所が観察される側だといわんばかりのガラス窓がならんでいた。円周にびっしりと張り付いた等間隔のガラスは光の加減で向こう側が小崎からは見えない。ただ、一つだけの窓をのぞいて。
「さて、一つ嫌な知らせがあルんだが」
 その窓のあたりから声が聞こえた。動かないとはいえ、呼吸と眼球ぐらいは自由になる。小崎は、ため息混じりにボサボサの髪の毛をした博士気取りの不潔な男を見上げる。
 ――あの発音、何とかならないの……?
「なんでしょう?」
 極力感情を抑え、自分がいらだってることを悟られないようにと小崎は、気を使って言葉を吐き出した。
「地上の反応ガ消えた」
「は?」
「全滅だ」

 一瞬頭がついてこなかった。小崎は、必死で彼の言っていることを理解しようとしたが、感情がそれをまったく理解しようとしない。
 いったい男が何をを言っているのか。その疑問だけが先行し、何を言ったのかすら記憶にのこっていない。
「意味が分かラないという顔だね。こチらも観測機からの情報だけだから、推測の域をでない状況しか伝えられないし、時間もないのだが……」
 つぶやき、彼は席から立ち上がる。椅子が床にこすれる無機質な音が窓ガラス越しに小崎の耳にまで届く。が、彼女はその音すら理解していない。
「美甘・昂助は、この世の存在ではないムイという化け物に、この世に存在すルための権利を奪われ観測不能に陥った。この世の存在ではない化け物は和平条約を破り、これもまた観測不能、とはいえもとよりこの化け物は存在する権利がないノで観測しづらいから、もしかしたら地上にいる可能性はある、が最初からこちらの味方というわけでもない。こちらの完全な手ごまであったはずのユキは、すでに破壊されてオり、外部入力機構のすべてを破壊された。それ以外の地上においてあった外部端末のそのすべテは、現在沈黙をたもっている。一瞬だ、一瞬にしてすべてがロストした」
 淡々と並べ立てられる言葉に、小崎はやはり反応しない。
「状況は最悪だ。今君は動けズ、戦力は……私一人なわけだからネ」
「……。昂助は?」
 まったく言っていることを理解しようとしない小崎に、白衣をきた男はため息を一つ。
「申し訳ないガ、くだらない感傷に付き合ってるほど余裕はない。今すぐこの場所を引き払い逃げ出したいが、残念ながら小崎・朝弓。君は今この時間のなかで一番重要な人物だ。どこの国の首相も、大統領も、王も君の重要性に比べれば今はほかの人間とおなじ程度しか差がない。そして、それほどの大義を背負ってる君は、それに答える義務があル。理解しろ、小崎・朝弓。君は今兵を失った」
 その最後の言葉だけが、小崎の頭に入ってきた。昂助がいない。ぽつりと、そんな言葉が頭の中に転がっている。
「しかし、私はこれでも頭は悪くないほうでネ。そして、自分がみた患者を放って置くほど非常でもない。ともかく、この場所から退避――」
「逃げません。ここで昂助を待ちます」
 凛とした言葉に、男は一瞬動きを止める。
「だから、現状を理解したまエ。この場所で今この状態でアレを迎え撃つのは無理だ。すでにあの戦力は人間以上になっている、自慢ではないが私はひ弱なほうでネ」
「問題ないです」
「小崎・朝弓。君がどれだけ重要な――」
「そんなものは私には関係ない。昂助は戻るといった、私が待つ理由はそれで十分」
「そんナ感情論だけで、何とかなるとおもっているのかね!」
「いいえ、感情ではなく下僕がいったのだから私は信じる。それが主の務めだから」
「――ッ! 君ね! 現状を理解したまえ! ……いや議論は後だ。無理やりにでも君を退避さセる」
 そういうと、男はふっと窓から姿を消した。まるで魔法のように、次にあいた扉の音とともに、男は小崎のめのまえにいた。まるで、今まで彼がいた部屋の扉が小崎のいる部屋の扉とつながっているような、そんなタイミングだった。しかしそれはありえない、彼がいたのは小崎を見下ろしている二階以上の高さのある部屋で扉は窓と対面にしかない。なのに、なのに、まるで扉がつながっているかのように、彼はそこに現れた。
 その驚きに小崎は動けず、ただじっと男を見る。
「さて、行こうか。すでに無駄な時間をすごしている。もう、君の意思は尊重しなイ。君の意思とは無関係に、君の存在が重要なだけだからネ」
 体から伸びているようにすらみえる、点滴のチューブを引きちぎると、男は動けない小崎を抱きかかえ上げる。
「やめてください!」
 叫び声だけは一人前だが、彼女の体はまるで金縛りにかかっているかのように動かなかった。

「っとと。結構重いね君」
「――最低!」
 小崎の叫びと同時、扉が乱暴に開く音がした。思わす男は小崎を取り落としそうになりバランスを崩した。
 開いた扉の奥、そこにいたのは昂助でもなく、ムイでもなく、ましてやユキでもなく――
「よー、見つけたぞ。ここ、ややこしすぎだぜ。博士その子、殺させてくれねーかな」
 ゆらりと、まるで力が入っていないマリオネットのような気味の悪い格好のまま、印象に残りづらい優男の顔が笑った。
 顔だけ見れば人間だが、その姿はあまりに異形というしかない。背筋や足に力はなく、うなだれしかし、肩の辺りだけがまるで上に引っ張られているように上がっている。まるでそれは操り人形のような姿だった。顔が人間のそれなだけに、不気味さはあまりにも現実的だった。
「お? これか? これなー」
 自分の姿に、嫌悪されていることに気がついたのか、優男はニヘラと笑いを濃くする。
「何だっけ、えっと。ガキにやられてな。しかも、なんかなおんねーんだわ。あれ、俺たちと同じ側になっちまったのか? それとも元から仲間だったりしてなぁ、ひひっ」
「昂助……」
 優男の言葉に、昂助がどうなったのか嫌というほど突きつけられ、小崎は動かない体をもう動かす気力すらなくしてしまった。
 幽かな力すらなくした体を抱きかかえていた博士は、一度だけすでに目を開ける気力すらなくした小崎を見下ろして軽くため息を一つ。
「……なんだね、君は。とても不愉快だネ。帰りたまえ。大体、小崎君がボクの言葉よりも、君の言葉を信用したことが不愉快ダ。ああ、不愉快だ。とても、不愉快だよ君」
 不愉快だ不愉快だと、繰り返し博士はつぶやきながら小崎を元いた台の上に戻す。
「あぁ? なに言ってんだあんた」
「大体、こっちがわに干渉してなんの利があるというのだ、君たちのような不確定な存在ガ」
「しらねーよ! いいからその子を」
「だろうね。そうだろうね。ああ、分かっているとモ。だからこそ不愉快だ。君たちはとても不愉快なんだよ。今日日肉食獣だって、食べるために生きるためにしか他を襲わないっていうのに、君たちの本能はただこちらの確率を奪い取ることに始終している。存在以前に、生物として君たちは――」
「うるせーな! 黙れよ。おっさん、そんな也でなんか出来るとおもってんの? ジャマだからどいて? どかなかったら殺すよ」
「確かに、こんな姿でなんとかなるとはおもっていないよ。武器もなし、見てからにひ弱の代表格のボクだ。だがね」
 いいながら、博士は優男を見据えて笑みを貼り付ける。
「故人曰く――」
 右手をすっと上げ、指を鳴らした。部屋に響く音はあまりにも直線てきで、こだまがいつまでも聞こえるようだった。
 その余韻を吸い込むように、博士は息を深く吸い込んだ。
「こんなこともあろうかと!」
 叫び声と同時、部屋が轟音を立てる。突然優男の目の前に壁がせり上がりはじめる。
「なっ!」
「安心してくれ。ボクたちが逃げるだけの時間ぐらいしか、持たないカら」
「糞が!」
 扉があった場所には隔壁が完全にそれを覆い隠していた。向こう側から殴られる音がするが、もとより彼らの身体能力はさほど高いわけでもなく、隔壁を揺らすだけにとどまる。
「さて、行こウか。時間が惜しい」
 動かない小崎をもう一度抱えると、博士はゆっくりと扉があった場所とは逆方向へとあるきだす。その先は只の壁にしかみえない。が、彼がその目の前にたどり着くとゆっくりと割れ目のなかった壁に亀裂が走り扉が出来上がった。
 静かに開いていく扉の向こう、光の無い真っ暗な廊下が続いている。
「まぁ、そこまで悲観しなくてもいい。別に美甘・昂助が死んだ確証はない。希望的観測ともいうガ」
 廊下にゆっくりと光がともっていく。
「よー、糞博士」
「な!」
 その闇の中にいたのは、優男にほかならなく、光に照らされた姿はあのマリオネットのような、奇怪な姿のままだった。
「想定外? 予想外? ばっかじゃねーの? あんな壁通り抜けられないとおもった?」
「あの壁は確率変動すら起こさない、絶対存在。やすやすと抜けられるわけが」
「すでにこの研究所のシステムが落ちてるんだってーの、それにもきがつかねーのか! バカだなあんた」
「――!」
 たたきつけられた、そう博士が理解したときには腕の重さは消えていた。
「んじゃま、こいつはもらってくわ」
 優男に背を踏みつけられたまま、博士は上を見上げる。優男の手にはいつの間にか小崎が抱きかかえられていた。
「わざわざつれて帰るのか……、まルで三流だな。その時間が命取りに……ナる」
「あぁ? だったら、今ここで殺してやるよ。別にもったいぶることもないしな。あっけないが、それもまた良しだ」
 そういうと、抱えていた小崎の首をつかむ。首だけで吊り上げられた小崎は、力なくそのままだらんとしていた。
「抵抗もなしかー、今まで苦労したのがバカらしいな。まぁいいや、このまま窒息してくれよ」
 その言葉に、ゆっくりと小崎の目が開いた。
「……なんだよ、そのめ」
 じっと、優男をにらみつける小崎。その目は一つの絶望も、一つの不安も浮かんではいなかった。
「まぁ、アれだね。先に……ゴホ。ネタ晴らしをしてあげよう。ボクの研究所のシステムをダウンさせたご褒美だ」
「あん?」
「確率を食われた美甘・昂助は、不確定。死んだ昂助も、生きている昂助も、存在している重ね合わせの状態だ。本来……ミクロでしかありえないそれが、マクロで起こりえることはない。ないが、一つだけ、それを起こす方法ガある」
「はぁ?」
「君たちの存在もにたようなものだ、少しは理解したまえ。バカカね君は。つまり、ムイに確率を食われた昂助は、本来ありえる確率に霧散してる」
 そして、それを小崎は理解していた。
「つまり、唯一にして無二の存在が、彼を確定すれば」
 世界のすべてを背負い、世界の矛盾をいってに引き受けていた絶対観測者。
「それは現界すル」
「な、なに――」
 言葉を最後まで発することは出来なかった。優男がいきなり吹き飛んだのだ。
「小崎」
 その声は、間違いなく美甘・昂助のそれだった。
「確かに殺したはずなのに!」
「君は、バカかね。それを彼女は観測していない。理由はそれだケだ」
 床に倒れた小崎を昂助は抱きかかえると、立ち上がる。少しだけ、安心したような目になった小崎は、ゆっくりと息を吐いて目をつぶった。
「お前自体が確定してない。オレも確定していない、あの場所に何かを確定する場所はなかった。悪いけど、俺が死ぬ確率はゼロだ」

連載小説:46

046:log
 鉄の上に寝かされている自分に気がついた小崎は、しかしじっと天井だけを見上げている。目を開き、呼吸も睡眠時の浅いものではなくしっかりとした呼吸であるものの、やはり彼女は動こうとはせず、じっと上を見上げていた。天井にはいくつかの白色照明が並び、小崎を見下ろしており目を開けているのは少々苦にすることがあるはずなのに、一向に気にしないままじっと、見上げている。
 まるで、そこに興が居るのがわかっているかのように。
「気分はどうカな」
「……」
 考え込むように一瞬眉に力をいれた小崎は、音の出所を眼球だけで探り何もいわずにまた天井を見上げる。
「大丈夫です。体は動きませんが」
「それはなにより。まだ麻酔が切れてないのもあるが、切れたら切れたら痛くて動けなくなるからかわらないかナ」
「そうですか。興は?」
「相変わらず、ボクにだけ冷たくないかナ? まいいか……。ユキは役に立ったカい?」
「ええ、助かりました。それで、興は」
 小崎の言葉に、ため息を付くと男は一度だけ上を見上げた。
「アレに嗅ぎつかれた。いま、建物の入り口で交戦中だ」
 その言葉を聞いた瞬間、小崎は立ち上がろうと体に力をいれ、しかし麻酔で体を思うように動かせない彼女はどさりと、もとの位置へと戻る。
「諦めてくれ。大丈夫、ユキも向かったしムイ君もいってる。君は体を治す事を考えれば良イ」
 男の言葉には反応せず、しかし理解したのか彼女は諦めじっとまた天井を見上げ始めた。その姿をみて、男は少しだけ短いため息をつく。先ほど解除された警報に、ほんの少しだけ安堵する。メイドは間に合ったようだし、そろそろムイも上に付くころだろう。なんの問題もない、そのはずだった。
 メイドの計測がそのままであるのなら。

 聞いたこともないような爆音が耳朶を叩き、興は思わず伏せた。自分のなかでありえない事実のようなものが覆され、彼は全く反応できず、身動きがとれていない。
 三人に取り囲まれたとおもったら、その三人は一瞬にして吹き飛んだ。研究所からでてきたメイドの回し蹴り一つでだ。彼女の活躍は見たことがあるし驚くようなことではなかった。助けがきてくれたと安心した瞬間、こんどはそのメイドが、堅牢をほこっていた興のなかでの最強であった彼女が吹き飛んだのだ。
 音というよりは、衝撃があたりを薙ぐ。音の波が見えたかと思うほどの衝撃に、体を丸くして必死でしのいだ。
 そしてゆっくりと上げた視界のなかで、興は目の前でメイドの腹から伸びる腕をみた。彼女の腹から空へとむかって付きこまれた腕は、爆発したのか、メイド服の焦げ付かせ白かったエプロンまでもが黒く煤こけていた。そして、血のいってきもなく彼女は相変わらず無表情で空をみあげているのだ。
「う、あ……」
「お前のセンサーさ」
 呟いたのは、メイドの背から顔をだした見たこともない男。
「定義がすむまで、ほとんどやくたたずだろ。まぁ、俺たちが観測されない側にいるのだから当たり前か。ヘヒヒヒ」
 ぐい、と腕が引き抜かれると、なぜか鉄の軋む音が聞こえメイドは地面に倒れた。
「出来立てには対応できないんだってなぁ? 始めまして生まれて五秒の赤ちゃんでーっす。てか? ギャハハハハハ!」
「興さ、ま。ムイ様がいらっしゃる、まで、退避、ヲ……」
 メイドがぎりぎりとうつぶせになってた顔を引き上げ、興を見る。声になぜかノイズがのっていた。まるでそれじゃぁロボットかなにかじゃないか、興は訝しげな視線で彼女をみるが、一瞬にしてそれは心配そうな感情に塗りつぶされる。
「問、題。ありま、セん。早く、退避を」
 ふらついた足に無理やり力をいれる、ふらふらになった骨を筋肉だけで立たせるような、無理やりな体裁きに、思わず重心をくずした。そのまま興は地面に吸い込まれるように体が傾いで、――
 止まった。
 思わず、うれしそうな顔で興は顔をあげる。ムイがきたのだ、と。
「ざーんねんでした。ブヒャヒャヒャ!」
 しかし興を抱えたのは、メイドを破壊した男だった。そして、躊躇いもなく開いたほうの手を興の腹に突き刺した。

 最初は振動。次は吐き気。吐き気にまけて口からぶちまけられたのは、血液と胃液のまじった何か。腹を突き刺されたのだ、と理解した瞬間から、気が狂いそうな痛みが体中を襲った。が息はできない。声を出したいのに息ができず、痛みを叫び声に変換することは叶わない。頭の中でぐるぐると回りはじめた痛みは体中を血液の代わりに回り始め、まるで全身が切り刻まれたかのような痛みが駆け巡った。
「興!」
 だから、興は、そとの音なんて既に聞こえてなかった。焦点どころか、眼球が意志とは無関係に痙攣し、あらぬ方向を見ている。痛みに体が反射を起こし、しかし動けず痙攣したようにごきごきと、体の中で筋肉がうごいているのが判った。
 視界がいきなり線を引き、地面をみていた目が空を向く。仰向けになったのだ、と興が理解すると、視界の端にムイの顔が現れた。
 後五秒ぐらい早ければな、などとどこか狂いきった頭のなかで誰かが呟くのを興はきいていた。
「興!」
 音は心臓の音と、横隔膜が動かず肩と胸の筋肉だけでする浅すぎる呼吸の音だけで。視界は見えているものの、興は理解していないことを、興はしっていた。
 ――あれ?
 そう、興は興を見ている。目の前にムイが居ることをしっているし、それが見えてないことも知っていた。
「右腕が侵食をはじめたか。君の存在確率はこんな場所で不安定になる予定がなかったからだな。このままいけば君は君でなくなる。どうする? 人として死ぬか? それともこのまま人ではないものとして、小崎・朝弓の下僕として生きるか?」
 体が痙攣し、その動きで血液が口から溢れる。
「急げば人として死ぬことができる」
 それにどんな意味があるのか、冷静な興は考える。そして、自分がなぜこうも冷静なのかを考える。
 世界は存在する確率によってのみ表すことができ、その確率を食べる悪魔のような存在が自分の右腕を食べたのだということは判っていた。存在する確率としてはあまりにも少ないが、それをよりどころに集まる影のような澱みが朝弓を食べたがっているのもしっている。
 そして、いまならソレがなぜかが判る。なぜかが判ることがなぜかわからない。
 影たちは、永久に存在する確率をもった小崎・朝弓とその子供であり親である存在の二人の存在が欲しいのだ。それは自分の右腕がくわれたのとおなじで、影たちもまた確率というものを「食べる」ことができるのだということだ。しかし、彼らは人よりも弱く、大手をふって彼女を食べに行くわけにもいかない。きっと自身を確定できたとしても、彼ら事体はか弱い存在のままだろうし、小崎・朝弓とその子供が存在している時間の輪のなかでしか存在できないだろう。彼らはただ、生きてよいといわれる場所がほしいだけなのだろう。
 そして、自分はなんだろう。
 興は空を見上げた。痙攣した眼球が安定した視界を運んでることはなかったが、それでもじゅうぶんに空はみえた。
 ああ、自分は右腕から発生した別の可能性の美甘・興なのだ、と彼が理解するのには一呼吸の時間しかひつようとしなかった。
 もとから判っていたのだ。ムイが判っていたから。その右腕と存在する確率を重ね合わせた自分がわかってしまったのだ。しかしこれは情報の共有なんてものではない。
 自分は間違いなく自分ではなくなって、最後にはムイと共に生きるという結果ではなく、ムイのもつ情報の一つ、存在する確率の一つになるであろうこともわかった。
 ――でも、小崎に何もいってないし。

『緊急事態です』
 その報がはいったのは、小崎が麻酔のせいで一瞬意識がとびかけたときだ。大きなガラス窓の向こうがわでも、白衣をきた男が驚きに席をたっていた。
『腹部の大半を破損しました。ジェネレーター、および中央駆動機、その他いくつかの計算機が破損。機能停止。状況は美甘・興様重体。ムイ様が到着されたもようです』
『ドクター都紙』
 スピーカー越しにきこえたのはムイの声だった。
『このままでは美甘・興は居なくなる。というか、既に私の右腕に食われ始めている。人として殺すなら今しかない。現在、まだ四つほど変種が生まれそうな勢いだ』
「……彼がのぞむなら、そのままにしておきタまえ」
「興?」
 小崎の呟きがいやに響いた。
『こ……さき』
 痙攣し、血泡をふくんだ声がスピーカー越しに返ってくる。
「興、すきにして。人がいいっていうなら、私はとめないから」
『……』
 無言がかえってきた。既に時間がないのは明白で、無言の間にも痛みで痙攣し呼吸ができずにあえぐ興の息遣いは聞こえていた。音を拾っているメイドとの距離もあるのだろう、それ以外にも遠くの音がはいっていた。ムイが立ち上がる音。いくつか、彼女たちだけではない足音。もう、時間はない。
『ムイ……』
 興は呟く。
 目の前で、自分に背を向けて人型をにらんでいるムイは、振り向かずにただじっとその場にたったまま興の言葉を聞いている。
「俺を、食べてくれ」
「……そのままでも君は、私の右腕に食われる」
「違うんだ。食べてくれ」
「わかった」
「小崎、少しまっててくれ。すぐ、戻るから」
 声はそこでぷつりと消えた。遠く長い長い廊下と壁に隔たられた向こう側で、正気の人間が出せないような苦痛にみちた叫び声がきこえたきがした。